朝日連峰 
大鳥〜茶畑山〜以東岳〜化穴山〜大影境(往復)
〜久しぶりの山は暴風雨のち晴れ〜
2011年4月29〜5月4日

 大震災と原発事故によるショックで、被災していないにも関わらずやる気がおきないところに吾妻小舎の御主人である遠藤さんの訃報が入り、ますますやる気から遠ざかり、2カ月も山に行かない日が続いた。
 懸命の復旧作業のお陰で一足早く福島まで再開した新幹線を見習い、我々にできることは極微小であり自己満足に過ぎないだろうが、東北地方へ出かけることで経済を回すことであるとして、活動を再開する決心をした。
 再開の場所は、朝日連峰。半年前から立てていた計画で、昨年秋の沢登りのときになんと4日も停滞してしまった朝日連峰大影境直下を目指す。
 さらに、以前二ツ石尾根から天狗小屋へ歩いた時に、管理人である山田さんと楽しい会話をしたことが思い出深く、また岩井俣畑沢を遡行したことをまだ伝えていなかったので、年月は経ってしまったがそのときの報告もしたいなと計画した。

アプローチ

東京駅6:08〜新潟駅8:16/8:34-鶴岡駅10:27

コースタイム

4月29日(くもりのち雨)
大鳥の旅館朝日屋さんへ宿泊

4月30日(晴れのち雨)
蘇安発電所6:20〜皿渕沢8:43〜茶畑山13:14〜戸立山手前15:00(幕営)

5月1日(雨のち一時晴れのち雨及び強風)
幕営地9:07〜オツボ峰12:06〜以東岳13:30〜以東小屋13:36

5月2日(地吹雪)
以東小屋停滞

5月3日(晴れのちくもり)
以東小屋5:23〜小法師山6:27〜西の峰7:15〜化穴山8:04〜大影境9:48/10:25〜化穴山11:55/12:20〜小法師山14:06〜以東小屋15:43

5月4日(晴れときどきくもり)
以東小屋6:07〜三角峰水場入口7:35〜戸立山9:30〜茶畑山11:00〜皿渕沢13:18〜蘇安発電所16:08〜車に拾われる


4月28日


 ムーンライト越後でのアプローチの予定であった。
いつもなら何事もなく上がれるはずであるのに、今日に限って急用が入り非常に焦る。隙を見てモコモコさんに「やばい、ムーンライトに間に合わないかも。」と連絡すると、「・・・まあ、頑張って・・・(これと同じことが前にもあったので半ばあきらめ状態)」との返事。
 やはりムーンライトには間に合わなかった。家に帰ると、モコモコさんから大幅なルート変更を提案される。なんでも4月30日〜5月1日かけての天気が最悪らしい。モコモコさんは天狗小屋が目的らしく、「天狗小屋なら一日目で小屋へ逃げ込め、悪天候をやり過ごせるから」を変更理由に、以東岳方向はばっさりカットのつもりらしい。これには、「大影境へなんとしても行く」と対抗心を燃やした山人に軍配が上がり、予定通り大鳥からの入山となった。


4月29日

 あれだけの大震災だったのに、懸命に復旧作業をしてくれた方々のお陰で、今日から東北新幹線が新青森までの全線で再開。一度は人の流れがとまってしまったが、今日は結構な人出。
 今まで「料金がもう少し安ければなー」と文句を言いながらすっかり頼りきっていて、山に行くにはもはや欠かせぬものとなった新幹線だ。なによりも実家へ気軽に帰省することを(料金は置いておいて)可能にしてくれていたことを改めて考えると、なんだか目頭が熱くなった。
 今回はその東北新幹線でなく、被災を免れた上越新幹線に乗車だ。
大宮駅からは自由席の立客が多くなり指定席車両への誘導放送が流れるようになって一気に新潟駅へ。

 新潟駅に到着するアナウンスが入る前に降りる支度を整え、新潟駅に到着と同時に特急いなほへ急いだ。新幹線の2時間はいいが、揺れる特急での2時間の立ちは、これから先の登りを考えるとちょっと避けたいので、恥ずかしいが座席を確保したい欲望があふれてしまった。
 この行いがいけなかったのか、北上するに従い雨が降ったりしており、日本海はとても荒れた感じだ。
 下車した鶴岡駅は曇り空。いろいろ支度をしたりしてタクシーに乗りこんだ。
 タクシーの運転手さんは、偶然にも熊撃ちをされる方でいろいろ熊についての話をしてくれ、あっという間に時間が過ぎて行く。
 桜が満開の市街地から郊外へ入ると、田んぼの隅や家の陰にはまだ雪が残っていた。今年は本当に雪解けが遅いと運転手さんと話をしていくうちに雨が降りだした。大鳥に近づくにつれ降り方も強くなってくる。
 今日はこれから行動しても、この天気ではせいぜい4時間程度だ。入山初日から濡れるのもいやなので、思い切って朝日屋さんに泊めてもらえたら泊ってしまおう、無理なら近くの公園の東屋で幕営すればいいやということで、早々と入山延期決定。
 運転手さんに予定の変更を告げると、「自分が(泊めてあげて)と言った方が顔が効く分泊めてもらいやすいだろう」とありがたいお言葉に甘え、どきどきしながら待っていると、「大丈夫だってよ」とうれしい報告が。
 足止めをくらったのは痛いが、モコモコさんから「一度泊まってみたかったんだ、ここ。」という本音がでた。
 荷物をさっそく運び込み挨拶をすると、「あれ、秋にきたよね」と我々のことを覚えていてくれた旅館の大旦那さんは声をかけてくれた。

 まだお昼であるが、早速部屋へ入らせてくれたのでのんびりと過ごした。
 夕食はどれもおいしく、ついお酒を飲みすぎてしまいそうになった。また、隣の席に座った御夫婦とも会話が進み楽しい食事の時間だった。あまりにも快適でモコモコさんが思わず「山から降りた後に泊りたいなー」と口に出したので、現実のものになってしまったのは後の話である。


4月30日
 
 朝日屋さんの御好意で、除雪終了点まで送っていただいた。大鳥から4kmで終点であるが、歩いたら軽く1時間はかかってしまうのでとても助かった。
 除雪終了点からは道路は完全に埋まっているので、大鳥川左岸の平坦地を適当に歩いていく。
猫渕沢出合い手前はどうしても道をいかないといけない。急な雪の片斜面になっていそうで嫌な予感がしたが、幸いなことに人一人が歩ける程度に道が出ていたので難なく通過できた。すぐに雪原状態に戻り、軽く潜る中モコモコさん先頭にひたすら歩く。
 猫渕沢を過ぎたところから再びしばらくの雪の片斜面となるがここは慎重に歩けば問題ない。
 左京渕ダムを過ぎてからも雪の片斜面が続くので時間がかかってしまった。
 結局尾根取り付きである皿渕沢まで3時間もかかってしまった。
 ここは熊撃ちの方のための小屋があるが、まだ埋まっていた。朝日屋さんによれば、今年は雪が多くてまだ熊撃ちに入っておらず、この連休から入る予定ということを聞いていたので、我々が稜線に上がってからの小屋開けになるのだろう。
 
 前回はここまで車で入れ、雨量観測用のアンテナまでは雪を踏むことがなかったが、今日は最初から雪上の登りだ。
 急な尾根であるが、天気が回復してくれたので、順調に高度を上げて行く。
 ところが、まだ御昼前なのに化穴山方面にはすでに黒い雲がかかっていた。明日天気が悪いので、今日は何時になってもいいから以東小屋へ入るつもりでいるのでなんとか天気が持ってくれることを祈りながら登る。高度をどんどん上げて行くうちに雪面がところどころうっすらときれいになっている。どうやら昨日の雨は、標高の高いところでは雪になっていたようだ。
 標高1200m近くになると、尾根は一気に広がる。風が強くなってきたので、稜線に出る前に休憩をとり雨具を羽織った。歩きだすとパラパラと雨まで降りだしてきた。雨具の下を履くほどでもないが、この先はまだ長いのでこれは困ったことになってきた。
 とうとうモコモコさんから茶畑山手前で今日はここで行動を打ち切ってはどうかと切りだされたが、先へ進む。
 戸立山直前までに、何度か行動を打ち切るように言われるがまだ14:00だからと先へすすんだものの、一層風が強くなり、「これからどんどん条件が悪くなるのに以東岳を越すのは無理だ。明日は今日以上に天気悪いからもし停滞となったら戸立山越えてしまうと凌げない。」と先に進むことにモコモコさんがものすごい抵抗してきた。
 
 久しぶりの山で確かにきついかもしれないということで、少し戻ったところにあった雪庇の亀裂に入り、モコモコさんはこれからの悪天のことを考えると場所の選定に難色を示したが、今晩の風を避けることを第一に考え、整地をして幕営した。

 
5月1日

 雨が降る音がするので、今日一日ここで停滞だなと二度寝。
 風が少し静かになったので、まったりしていたら、雨の音も静かになってきて少し明るい感じもしてきた。外を覗くと少し太陽が見えた。
 いわゆる悪天前の疑似好天というやつだろう。2ヶ月も山に入っていなかったのでこういった現象のことも忘れていた。いつもだったらこれを利用して今頃は三角峰辺りまで行っていたかもしれない。
 予想天気図では、長ーい前線を伴った大きい低気圧が来ていたので、今のうちに小屋へなんとか入ろうと、急いでパッキングし出発。天気が持つのはせいぜいあと1〜2時間。きついのは悪天候につかまってしまうだろうオツボ峰〜以東岳だろうが、ゆっくり休んだのでなんとかがんばれるだろうと踏んだ。
 ところが静かな時間は思ったよりも続かず、出発してすぐにポツポツ雨が降り出してきた。

 戸立山の急な登りをかんばってなんとか越した。
 三角峰までは風が強いものの、時折風を避けられるところもあるので順調にこられた。
 ところが水場への分岐を過ぎてからは、登山道がむき出しになっているのを見てわかる通り物凄い風との戦いが始まった。
 風か雨のどちらかがもう少し弱まってくれればいいが、雨の中物凄い風に必死に耐えながら進まなくてはならず、とうとうモコモコさんから撤退したいの声が上がる。
 なんとか励まして進むが、オツボ峰を越すまでなんどかこのやり取りが続いた。後から聞くと、全く山に行っていなかったので頑張れる自信が全くなかったとのこと、オツボ峰を越えてからは、山人にはまだ余裕がありそうで、また、大きく張り出した雪庇を使い、一瞬でも風を凌げるところもでてきたので先に進む覚悟を決めることができたとのこと。
 確かに、モコモコさんは冷静になれたようで、濃いガスで、間違えて山人が下ろうとしてしまったところもあったが、モコモコさんの指摘ですぐに修正できた。

 以東岳手前のヤセ尾根の岩場は、この残雪量でも夏路が出ていたので怖い思いをすることなくクリアできたのが助かった。
 天気が良いときでも長く感じるこの登りは、悪天の今日は一層長く感じた。ようやく以東岳へ到着。そそくさと小屋へ向かう。最初は夏路がでているので方向を間違えることなく進めるが、これは風で雪が吹き飛んでいるためなので、一層強くなった風に耐えながら進む。
 すぐに雪面になりずんずん下るとぼーっと以東小屋が見えた。
 雪が多いので、除雪が必要となるとかなりきついなと不安に思っていたが、幸いにも除雪することなく、また梯子で登ることもなく小屋へ入れた。
 モコモコさんには先に小屋へ入ってもらって荷物を運び入れてもらい、その間に雪取りを済ませた。

 外のトイレを覗くと、2つのうち1つだけ扉が開いて使える状態だった。これで明日悪天候でもなんとかなりそうだ。
 小屋へ入り寒いので真っ先に着替えをすると、あまりにも風が凄かったので雨具を来ていたにも関わらず頭のてっぺんから足先までびしょ濡れだ。
 もし綿の下着だったらいまごろ低体温症で動けなくなっていただろう。それを考えると、寒いが冷たさや濡れたときの重さをほとんど感じずにいられたのには、「新素材ってやっぱりすげーっ!!!」と今更ながらモコモコさんと感心した。
 着替えを済ませるとようやく落ち着いた。
外は雨風が益々強くなってきているようだが小屋内は快適そのもの。ここまで頑張ったかいがあるというものだ。
 携帯電話が通じるかどうか試そうと電話を取りだすと、朝日屋さんから電話が入っていた。小屋内からなんとかアンテナが立ったので朝日屋さんへ電話してみると、天気が悪いので心配していたらしく、無事小屋へ入ったことを告げると安心してくれたようだ。見守っていただきありがとうございます。
 ゆっくり夕飯を済ませて、どうせ明日は停滞だろうから目ざましも掛けずに惰眠を貪ることにした。


5月2日

 天気は益々悪い方へと向かっているようで、寝就いてから数時間もしないうちに小屋を揺るがすような風が吹き荒れて目が覚めてしまった。ドカッとくる風に最初地震でも起きたかとおどろき、絶えず強く吹く風に小屋が揺すぶられ震度1〜2程度の揺れが続くので落ち着かない。少しうとうとしたかと思ったら神棚からなにかがゴロンゴロンと落ちた音がした。割れた様子はないのでそのまま寝る。しかし、また1時間程後にまたなにかがゴロンゴロンと落ちた音がし、さらに1時間程して同じようなことが起きた。風による揺れが弱いながらも続いていたことで、恐らく神棚からなにかが落ちたのだろうが、真っ暗なので朝になるまでそのままにしておいた。
 翌朝起きるとやはり落ちたのは神棚からだった。元に戻すときに初孫のカップ酒の空き缶があったのを見つけ、日本酒をかつぎあげていたのでわずかながらも御神酒を捧げ天候の回復を祈った。

 天気予報で悪天候になるとは分かってはいたが、外を覗くとなんと吹雪となっていた。これで今日は停滞が決定だ。
 ゆっくりと朝食を済ませると、トイレに行きたくなってきた。1階から出入りできれば、トイレはすぐそこであるが、1階の入口はまだ雪に埋もれているので一度完全に外に出ることになる。雨具を上下着て、さらに昨日の雨で靴の中が濡れているので裸足で靴を履いてトイレへ向かう。一歩外へ出ると強い風により雪が舞いあがり雨具を着ておいて正解だった。少しの距離でも大変な移動になった、トイレにたどり着きドアを開けようとすると、なんと昨日は開いたドアが開かなくなっていた。昨日の雨が寒気により凍りついてしまったらしい。
 がっかりして小屋に戻るとモコモコさんもトイレに行きたくなって雨具を着込んでいたところだった。トイレのドアが開かなくなっていたことを告げるとどうしようといった顔になるが、我慢の限界が来たらしい。
 小屋の外に出ると一段と激しい地吹雪となっていた。小屋から離れるのは危険そうだ。やむをえず、小屋のそばで用を済ませビニール袋に収容して雪に埋めておき、天候が回復したら捨てに行くことにした。
 トイレへ行くのも一苦労となってしまった。

 トイレ騒動もひと段落したところで改めて小屋内を見回すと、昨日は落ち着くのに精いっぱいだったので小屋の中が散らかっていた。また、小屋に備えてあったブルーシートを敷いていたものの、濡れた装備を置いたのと、水作り用の雪を入れたビニール袋に穴が開いたせいで融けた水が漏れてしまいシートがびしょびしょになっていた。そこで明日の行動用の水まで一気に作って水用の雪を片づけた。
 さらにたっぷりある時間を使い、整理整頓と小屋内の掃除をした。
 小ざっぱりとしたところで御茶タイム。1日目分の燃料を使わずに済んだので、お湯をさらに沸かし、今度は鍋の熱で濡れた服の乾かし大会を始めた。

 乾かし大会をしながら、今後の行動計画を練り直す。
 既に下山分の予備日を除いた分の予備日を使い切っており、天狗小屋経由で降りるには明日には移動しておかないといけない。しかしどうしても大影境に行きたいので、天狗は諦めることにした。また、竜門経由で日暮沢に降りてもきっと林道の除雪が終了していないだろうから時間が読めない。結果として、明日は大影境へ往復してきて以東小屋へさらに1泊し、明後日大鳥に下山することに計画を変更した。
 懸念は大鳥からの交通だ。
 大鳥には降りられるが、その日の内に新幹線で帰宅できるような時間のバスに間に合うか微妙なところ。最終のバスになってもムーンライト越後でなんとか帰れるが、連休中だ。席がとれなかったら新潟で難民になりそうだ。タクシーを呼んだとするとタクシー代と朝日屋さんに泊るのと金額はたいして変わらなくなってしまう。
 そこで思い切って朝日屋さんにまた泊ってしまおうということになった。空いてなかったらテントを持っていることだし最終手段として適当なところで泊ればいいやということになった。
 昨日携帯電話が通じたので、朝日屋さんへ予約の電話をしてみるとありがたいことに宿泊OKとのこと。下山後の楽しみが増えた。なんと、最初にモコモコさんから発せられた「下山後に泊まりたい」が実現してしまうことになった。

 明日の行動の用意をしたり、頑張って服を乾かしたりしていると停滞といえどもあっと言う間に時間が過ぎて行った。
 早目の夕食を済ませて明日に備えた。


5月3日

 待ちに待った高気圧の出番がきた。
外はこれまでのことが嘘のようにくっきりと周りが良く見えていた。
小屋の外へ出ると冷たい風が吹いていたが、行動にはまったく問題ない。外に出していたピッケルと杖にはびっしりとエビの尻尾が付いており、トイレのドアはまだ開かないままだった。昨日ビニールに入れておいたものを小屋から離れた所へ行き、穴を掘って捨てた。
 体操をして出発。
 雪面が固いのでさくさく進めた。
 西ノ峰手前の少しの距離であるが、前回藪を漕いだ所も亀裂が入りながらも雪堤が付いていたので藪に入ることなく通過できた。
西ノ峰から先は、昨日までの悪天候のせいか化粧直しをしたきれいな雪尾根が見えた。
雪は適度な柔らかさになっており、登りやすかった。
 途中自衛隊機が頭上を通過して行った。被災地へ行くのだろう。昨日ラジオで、天皇陛下が被災地へ訪問される予定だったが悪天候で延期とのニュースを流していたので、「もしかして天皇陛下が乗ってるんじゃないか?」「そうかも、もしかして凄いの見た?」と話題になったが、実際は違ったらしい。いずれにしても身を粉にして動いていただいている様々な方には感謝の言葉もなく、こうして遊んでいて申し訳ない気がした。

 順調に化穴山に到着した。予定よりも早く着ければ枡形山まで往復できるといいなと昨日話していたが、やはり無理がありそうなので大影境までにしておくことにした。するとモコモコさんは、だったら甚六山のピストンにしようと言い出してきて、ひと悶着あったが、やはり最初からの目的だった大影境へと進むことになった。
 化穴山からもったいないほど一気に下降していく。
日も昇り暑くなってきた。降り切った鞍部が少し広くなっていたので、休憩がてらアンダータイツなどを脱ぐことにした。そうこうしているうちに時間だけが過ぎて行き、化穴山頂はすぐそこなのに既に1時間も使ってしまった。
 こんなんで大丈夫か?気温が更に上がり潜るようになってきたのでペースががくんと落ちた。
 それでも大影境が近づくにつれて気持ちも盛り上がってきた。
 大影境が近くになると藪がちらほら出てきたが、尾根側面に残った雪をトラバースしていけたので大したことはなかった。とうとう昨秋4日も過ごしたところまできた。今見ると単なる斜面だ。よく泊れたものだ。
 大影境はそこから極間近だ。
 化穴山から見るとずっと標高も低くぱっとしないが、実際立ってみると、その名の通り色々な沢や尾根を分ける分岐点となっており眺めが良かった。
 展望を十分楽しんで、あとは往路をのんびり戻ることにした。
 ゆっくり戻っても小屋には15:00前には戻れるだろうと思っていたが、暑さと、腐れ雪であまりペースが上がらない。
 化穴山へはようやくといった感じで戻った。山頂は冷たい風が吹いていたのでテントのフライをかぶって休憩した。
 いつもながら、戻るとなるとこれから行く先は遠く見える。
 行きとは違い柔らかくなった雪尾根をせっせと戻り、西ノ峰からの下りで二人とも何回か踏みぬいて、小法師山までたどり着いた。
 これから戻る斜面を見ると、表面の新雪がだいぶ融けたのか、黄砂で汚れた斜面がかなり出てきて縞模様になっていた。
 この頃から空も曇ってきた。あれだけ暑かったのに止まると寒さを感じるようになってきた。休憩もそこそこにひたすら往路を戻る。
 以東岳手前のちょっとした急な登りを済ませたところで、一枚着込んだ。小屋まであと一登りだ。
 予定よりだいぶ遅れて小屋へ着いた。今日は誰かがいるかも知れないと思ったが誰もいなかった。
 トイレのドアを確認すると、無事ドアが開くようになっていた。
 やはり林道歩きで時間が取られるためか、天候が回復しても、結局誰も小屋に来ることなく今晩も貸し切りになった。
 

5月4日

あっという間の下山日。
予定の一部しかこなせなかったが、ずっと山に行っていなかったので今の我々にはこれで十分。あとは無事に降りるだけだ。
バスの時間を気にしなくていいので気も楽だ。
小屋の掃除に時間がかかってしまったが、予定通りに出発できた。

 以東岳へ登り返す。山頂まであともう少しというところで、出発して以来初めて人を見た。残念ながらあちらはこちらに気が付かずそのまま狐穴方面へと進んでいってしまった。
 オツボ峰まで主稜線を何度も眺めるが、さきほどの単独の方の姿は見つけられなかった。
 水場分岐にテントが一張りあった。恐らくあの単独行の方のものだろう。
 入山してからずっと吹いている冷たい風を避けて休憩をとった。戸立山に近づくと、行きはなんでもなく歩けたところが帰りはあちらこちらに見えない亀裂が入っていて踏みぬくことが多くなった。それでも戸立山はまだ藪を漕ぐことなく越えられた。
 茶畑山から人が向かってくるのが見えた。どうやら二人組でスキーで移動しているようだ。いろいろと情報交換したかったが、我々が巻き気味に進んでいるうちにスキー組は稜線に忠実に進んでいたので、気が付いたらすれちがっていて残念ながら挨拶すらできなかった。
 茶畑山手前の、池があり小さいながら二重山稜線の様相をしている地点でゆっくり休憩した。このころから猛烈に焼きそばが食べたくなってきた。モコモコさんに話すと、降りてから(皿渕沢出合で)食べればいいじゃないと言われてしまう。
茶畑山から稜線をはずれ下りにかかる。尾根へは、まだ張り出したままの雪庇を回り込んで入った。
 この辺りはゆるやかで広いので気持ちよくずんずん下っていける。モコモコさんを置いていく形で進んでいくと、なにやらモコモコさんが大声を出している。何を言っているのか聞き取れない。するとモコモコさんから無線が入った。どうやらテント跡があるらしい。スキー組のかな?
無線のスイッチを入れているなら先に進んでもいいや、そうすれば焼きそばを作る時間が稼げるとさらにモコモコさんを置いてどんどん進んだ。目論見通り、旧雨量観測小屋脇で焼きそばを作ることに成功したが、置いて行かれたモコモコさんからは「焼きそばと私を天秤にかけた。私は焼きそばと同じか。」と怒られた。
 どんどん雪解けが進んでいるが、結局下の雨量観測所までばっちり雪が付いていた。
観測所から下は尾根にある踏み跡がほとんど出ていたので、アイゼンをはずして行けた。急な下りを一気に降りると入山日はまだ眠っていた熊撃ち小屋はすっかり目覚めており、沢水も引水されていた。ありがたく美味しい水をがぶ飲みした。
 ゆっくり休憩していまだ雪で埋まっている林道を歩くが、行きと違って踏み跡があるので楽だ。また、行きはいやらしかった所も道の端が出ていたので助かった。
 左京渕ダムを過ぎると、熊撃ち衆の姿が見えた。1組5人ほどで行動するらしい。挨拶を交わしさらに進むとすぐにもう1組の姿が見えた。良く見ると朝日屋の大旦那さんと現御主人の息子さんの姿があった。少し離れていたが、挨拶するとあちらも気が付いてくれた。
少し話をすると、下でも天気が悪くて5月1日から入る予定を1日ずらして5月2日から入山したとのことだ。
長い林道歩きが少し楽しくなった瞬間だった。

順調に進んでいったが、猫渕沢出合を過ぎたあたりから日当たりがいいせいで雪が緩んでいるのでペースが落ちて行き、ようやく除雪終了点だ。ここまでの時間を見ると、やはりバスで帰るのは厳しかったと思った。
ここからはアスファルトで楽勝なはずだったが、モコモコさんの靴ずれ痛いであまりペースがあがらない。まあ、今日はバスの時間を気にしなくていいので気は楽だ。

日も陰ってきて少し肌寒さを感じながら歩いて行くと、車が止まってくれ声をかけてくれた。ありがたく乗せていただく。短い時間であったが車内で色々話をしていくうちになんだか点と点が線でつながったようだ。降りるときに「カモシカ永井さんですか?」と尋ねると正しくその方であった。
朝日はやはり心憎い演出をしてくれる。そうと分かったらもっと色々とお話をしたかったが時間の都合でお互い記念撮影をして我々は宿へ、カモシカ永井さんは明日からの入山なのでそれに備えて別れた。(カモシカ永井さんのレポはこちら


 宿に着くと、すぐにお風呂に入れ、とても気持ちが良かった。お風呂からあがると「夕飯出来てますよ」と声がかかった。もう幸せでたまりません。
また今晩も同宿の方とお話ができたが、その方は相馬在住の方で現状を色々と聞くことができた。
 明日は帰るだけ。ゆっくりと山の余韻を楽しんだ。


大鳥から4キロ地点の発電所 除雪終了点 まだ冬眠中の熊撃ち小屋
最初の雨量観測所 茶畑山の稜線へ向けて
茶畑山山頂方面
疑似好天 5月1日の朝
茶畑山方面を振り返る 戸立山を越えた
ガスと雨と風の中、以東小屋へ 5月3日の朝 天候回復
化穴山方面 うねる稜線
中ノ沢右俣上部 化穴山と1446mP
以東岳方面を振り返る 化穴山と1446mP
大鳥池 1446mPより以東岳方面
化穴山 ちょっとしたナイフリッジ
1446mPと後方は以東岳 モコモコさんがリッジを越えてきた
もう少しで化穴山山頂 化穴山、山頂直下より振り返る
化穴山より甚六山方面 化穴山より大影境と右奥は桝形山
まもなく大影境 2010年9月ビバークした付近 大影境より化穴山


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