山域 八幡平・裏岩手連峰
コース 乳頭温泉〜孫六尾根〜大白森〜大深岳〜八幡平〜後生掛温泉
〜一日一小屋みちのくの山旅〜
日程 2016年4月28日〜5月4日

 今年は驚くほど雪が少ない。昨年に続き朝日の藪尾根ルートを考えてみたが、その名の通り藪漕ぎ縦走になりそうだ。そこでモコモコさんの腹黒発揮で、八幡平周辺なら山容がなだらかなので残雪量もまだ十分なはずと久しぶりに思い切って北上することにした。計画では秋田駒ケ岳〜森吉山でしたが・・・。
 距離だけは長いルートとなる予定なので少しでも早く歩き始められるよう夜行バスで、さらに計画変更に柔軟に対応できるようにバスは盛岡行に。そして少しでも雪が残った状態で歩けるように連休一日前から入山することにした。
 
データ アプローチ
東京駅八重洲口23:30−盛岡駅6:40/7:58-(こまち)-田沢湖駅8:31/8:45-乳頭温泉9:33

コースタイム
4月28日(雨)
 バス停9:41〜孫六温泉登山道入口10:07〜田代平山荘12:19
4月29日(雨一時やむ午後から雪)
 田代平山荘8:29〜蟹場分岐9:44〜小白森山12:02〜大白森山13:05〜大白森山荘13:37
4月30日(雪ときどき曇り夕方から晴れ)
 大白森山荘6:20〜大沢森8:19〜曲崎山巻きはじめ9:27〜巻き終わり10:04〜八瀬森山荘11:56
5月1日(雪又は雨か霙一時やむ ほぼ一日ガス)
 八瀬森山荘7:57〜1283mp付近10:49〜東ノ又沢源頭の湿原11:59〜大深岳13:41〜源汰ケ岳との分岐13:55〜大深山荘14:16
5月2日(くもりときどき晴れ)
 大深山荘6:19〜嶮岨森7:42〜諸檜岳11:11〜畚岳分岐12:42〜アスピーテライン13:06〜レストハウス13:20/13:48〜凌雲荘14:20
5月3日(晴れのちくもり)
 凌雲荘でのんびり停滞
5月4日(雨のちくもり)
 凌雲荘9:02〜レストハウス9:30/10:02〜後生掛温泉12:37


4月28日(雨)
コースタイム;バス停9:41〜孫六温泉登山道入口10:07〜田代平山荘12:19

連休の一日前だが、2号車まで出ている盛岡行の夜行バス通称(旧名)「らくちん号」に乗って、順調に盛岡駅に到着。相変わらず乗り心地のいいバスだ。
バスを降りると季節が逆行しており一枚羽織ってちょうどだ。
らくちん号で盛岡入りしたときのおきまりのコースになっている、松屋で朝食をとるために移動。お店近くにいた雀さんはまだふくら雀だった。自宅周辺の雀さんはとっくにホッソリしてツバメさんまでやってきているというのに。やはり盛岡は北国だな。

朝食を済ませて外に出ると、昨日の天気予報ではまだ朝の内は曇りだったのに予報よりも早くに雨が降り出していた。
最新の天気予報を見ても終日雨だ。
当初は国見温泉から入り秋田駒ヶ岳を越えて行くつもりだったが、今後の予報を見ても入山中傘マークがない、まともな日は2日のみ。秋田駒は思い切ってカットし、できるだけ早く小屋に入ることができる乳頭温泉から孫六尾根を登り田代平小屋へ入ることにした。天気が回復すれば乳頭山くらいは往復してこようという魂胆だ。

盛岡からバスの出発点である田沢湖駅までは、この時間JR東日本の陰謀で新幹線しか運行されていないので、仕方なく「こまち」で移動。連休前の仙台始発なので車内はガラガラ。立席特急券でも余裕で座ることができた。のんびり車窓を眺めるが、空はどんよりとしたままだ。

バスに乗る前に身支度を調えた。
田沢湖駅前のバス乗り場は、駅の規模の割には駅出入り口から遠く、バス停まで屋根がないので雨の中移動。こんな不便な扱いでは増々バス利用者はいなくなっていってしまうだろうと心配になった。

連休前であり東京からの新幹線が到着する前なので、駅から乗った乗客は我々のみ。
雨の中乳頭温泉へとバスは進む。周りの桜は咲いたばかり。日本は南北に長いね。バスが進むにつれて桜はこれから咲く様子になって林間に雪が残ってと季節をさかのぼって乳頭温泉に到着。
待合室のある乳頭温泉バス停で最終的な身支度を整えて体操をしていると、宿から送迎されてきた数人がやってきたので我々は入れ替わりに出発。

出発前のパッキングのことだが、今年は天気があまり良くないらしく気温も低いらしいのでいろいろ備えていたら、いつものザックでは収まらずにとうとう手持ちのもので最大のザック120リットル(2010年厳冬期の飯豊連峰に挑戦したときに使用したもので、我々の間ではなぜか伝説のザックと呼ばれている)に移し替えることになった。モコモコさんも同様に一回り上のザックに移し替えることになったが、妙にツボにはまったらしくゲラゲラ笑いながらパッキングしていた。そのザックがとても重い。

しばらくは林道歩き。雨で気が滅入るがしっかりと整備されているので歩きやすい。
温泉の建屋手前にある登山道入り口で水が出ていたので、水を汲み替えて登山道にとりついた。

登山道は最初沢沿いの斜面のトラバースから始まる。所々雪を踏むが、ほとんど夏道がでていた。
尾根に上ってからは、だんだん夏道を雪が覆うことが多くなってくる。
一旦傾斜が緩んで小さく下った後の登りは全面雪となった。植生も針葉樹が目立つようになった。
元々重い荷物に雨が染みてくるので、一層重くなった感じだ。

生憎の雨で、たった2時間も歩いていないのに早くも行動を終了させたい気持ちだ。
傾斜が緩んできたころから冷たい風が吹き付けてくるようになった。手がかじかんできたので今年仕入れた兵器テムレスを手にはめた。
まさかこの時期に初っ端から使うことになろうとは思いもしなかった。ここから稜線は間もなくだった。
上がったところは湿原らしく木は生えていなかった。小屋方向へは樹林が続いており、風が強いので素直に樹林の中を歩いた。
樹林帯で先は見えないが、小屋は近くにあり直ぐについた。

早くに到着したら乳頭山へ行ってこようと入山時は思っていたが、そんな気はさっぱりと消え失せていた。打ち合わせも何もしていないが、小屋に入るや否や、雪取りだけ済ませて二人ともさっさと荷ほどきにかかった。
ザックが雨でびしょびしょなので、中身だけ寝所の2階へ荷揚げした。

1階に椅子とちょうどいいテーブルがあったので、水作りを行ってから体が冷えてしまったため暖かい飲み物を飲んで2階でくつろいだ。
まだお昼を過ぎたばかりだが、平日でありしかも雨という状況なため、思った通り誰もこなかった。
小屋では携帯のアンテナがバッチリ立ったので天気予報を見てみると、これまで見たどの予報よりも悪い方向に天気予報は変わっていた。
天候回復を期待していた明日4月29日の午後からは、雨マークどころか雪マーク。先が思いやられる。
奮発して担いできた食材に舌鼓を打つと、夜行で来た為か一気に眠気が襲ってきたのでまだ薄暗いうちからシュラフに包まった。

雨の中出発 林道はよく手入れされている
孫六尾根登山口 水が滴る
テープ印に助けられる 強風に痛めつけられる
湿原が出ている 田代平山荘



4月29日(雨一時やむ午後から雪)
 コースタイム;田代平山荘8:29〜蟹場分岐9:44〜小白森山12:02〜大白森山13:05〜大白森山荘13:37

朝目覚めると雨の音がする。
天気予報を早速見てみるが、良くなるどころかさらに悪くなりお昼前に一時的に雨が止むだけで雨マークが並んでいる。
予定通り出発できるように準備をしたが、雨の音は止まず。このまま出発しても昨日同様びしょびしょに濡れるだけだ。今日は少し標高の高い大白森と曲崎山を越えなければならないので、それは勘弁願いたい。

雨が少しでも弱くなるのを待つことにした。
7:30頃になると音が静かになった。やった雨が止んだのかと外を見ると、雪に変わっていた。
雪ならば雨よりはましと出発を決断。

外に出ると、降り方も小降りになっていた。アイゼンを装着して歩き始めると、潜る。
朝方様子を見に外に出たときはカチカチだった雪面が一気に柔らかくなっていた。
しかし一度付けたアイゼンを外すのは面倒だし、背負うよりは足につけたほうが軽いのでそのまま着けて行くことにした。

昨日登ってきた尾根分岐まで戻り、湿原が雪原となった緩やかな斜面を一下りしていく。小雨が降っているが視界は悪くないので助かる。
台地状の1239mPを通過し標高1200m辺りから一気に降りる場所になる。方向を定めて少し降りると登山道を示すテープが見られたが、笹薮が出ていたので少し外して雪がつながっているところを降りた。尾根右手の戸繋沢源頭部を見ながらしばらく沢沿いに進み、1068mpのある尾根を外さないように少し左に曲がって再び右手に戸繋沢の別の源頭部が上がってきたあたりで一休みする。

地形図を見るとあまり進んでいないことが分かる。
出発が遅かったこともあるが、予想以上に足元が沈むので予定よりも随分と時間がかかっている。これは八瀬森山荘までいくのは結構きつそうだ。内心この時点で今日は大白森山荘までかなと思った。
休憩中も冷たい風が吹いていて寒い。

重い腰をザックを上げてノロノロと出発。
少しテープが目立つようになって素晴らしいブナ林の中を歩いて行くと、木に打ち付けられた標識があったりとにぎやかな一角に着いた。どうやら蟹場分岐らしい。ここまでで夏のコースタイムの20分オーバー。本当に大白森になりそうで、モコモコさんに「今日は大白森山荘までかな?」と伝えた。
この時点では、まだモコモコさんは八瀬森山荘まで頑張る気でいたらしい。

尾根の分岐や沢の源頭部を右に左に見て1063.3mを目指す。この辺りは尾根がはっきりするのと地形的なものか残雪量が少ない感じだ。
いくつかぴょこを越えて1063.3mPに登り切ったところで、うれしいことに少しうす曇りになったので日焼け止めを塗った。
ここまでくると小白森が見えるようになってくる。山頂はガスだが位置はわかる。とても遠くに見え、大白森はさらにその先のガスの中の山だ。尾根筋がうねっているのがわかりうんざりする。

1063.3mの下りは少し急で、モコモコさんは私少し回り込んで降りると登山道ルートから少し外れて沢の源頭部をトラバースるように降りて行った。そんなに急かな?とモコモコさんはとは別に登山道通りに尾根通しに降りてみた。何も問題なく、逆にモコモコさんはトラバースで逆に遅くなっているようだ。
ここは正当に尾根通しが正解。

1063.3m先の1101mPとの間にある台地状のピーク直下は急傾斜なためか夏道が出ていた。回り込んで雪面を登っていくか協議して、潜らないだけ夏道のほうが楽だろうということで夏道から登った。
ここから1101mP先までは今日一番楽しいところだった。
ブナは素晴らしく、天気も回復して穏やかだ。天気が良くなったので途中山腹にある姫潟に寄ってみようかなと話をして盛り上がる。

1101mPは少し登ったところから東斜面を巻いた。
巻いた先で休憩。このまま天気が良くなればいいなと願った。
視界がいいので、すぐ先のピョコを西から巻いて小白森の登りにとりつくのも楽々クリア。

小白森へは標高差があまりないので、登るようになったなと思ったころには登り終了という感じで済んだ。しかし先程までの穏やかな天候は何だったのかというほど、あっという間に去ってしまい雪がちらつくようになった。姫潟に寄るのはもちろん中止。
ちらつく雪の中少し北へ進んだところにある湿原目指して進む。湿原から先の尾根は少し方向が変わるので注意しなければと思っていたが、ちょうど登山道が少し東へ曲がる当たりの木道が出ていたので、木道の向きを参考に進むと難なく尾根に乗ることができた。

さっきまで湿原だったのが嘘だったかのように少し下るとまたきれいなブナ林。本当に天気が良かったら楽しいところだったろう。
この時点で予定を大幅オーバー。大白森小屋泊がほぼ決定。
大白森の登りはこれまでの疲れが一気に出てくるようになり足取りが一層重い。モコモコさん先頭に登る。
直登がなんだかつらく斜面を大きく使ってジグザグに登った。

やっと傾斜が緩んだ。小白森山は山頂の一角が湿原だったが、大白森山は山頂台地全体が湿原だ。一気に視界が開けた・・・・と言いたいところだが、天気が悪く雪も強まってきたため見渡すことはできない。

方向が分かりにくいので、木道が出ているところは木道上を歩き、出ていない場合は次に木道が出ているところを探しながら歩いた。
木道が出ているところが結構あったので無事山頂標識を通過。ここから小屋までは結構木道が隠れている。踏み抜きに注意しながら進む。もう少しで木道が終わりそうだというところで、モコモコさん派手に転倒。木道がはっきり出ているところで踏み抜いたわけでもないがなぜか転んでいた。
転んだ拍子に木道で膝頭を打ったとかで足に力が入らずしばし痛みが引くのを待つ。

ビュービュー風雪が吹き付ける中、モコモコさんの痛みが引くのを待っているとようやく歩けるようになったようだ。
その後は特に影響もなく大白森山からの下りに入ることができた。真北に向かって思い切って下降して、傾斜が緩んできたところで、これまた左に思い切り降ってそろそろ小屋だなとあたりを見回しながら降りていくとピンポイントで小屋に着くことができた。イエーイ!

天気が良ければまだ八瀬森山荘を狙える時間だが、天気は悪化をたどる一方だし沈む雪面なので無理せず荷物を下ろすことにした。
この小屋は比較的新しくきれだが、何しろ狭い。あともう一人二人が精いっぱいだ。
まあ連休初日で天気が悪いから今日も貸し切りだろうということでお店を広げた。

入山前の予報通り冷えてきて寒い。ふと外を見ると猛吹雪。一気に真冬に逆戻りだ。
田代平山荘出発をあの時間に決断してよかった。あと1時間遅かったら大白森山でこの吹雪に捕まっていたことだろう。

それにしてもゴールデンウイークとは思えないほどの歩みの遅さ。明日も天気は思わしくない。天気予報では昼頃から天気が回復と言っているが、山だからどうせ回復は夕方だろう。今年は雪が少ないくせに、天候は2011年や2013年の年(天気が悪く連日雨や雪だった)並に悪い。
幸いこの山域は避難小屋が充実している。
割り切って一日一善ならぬ一日一小屋のペースで進むことにした。

小屋にストーブがあるので、期待してのこぎりを持参していたが、天板部分が無いので使用不能状態だった。(木の板で代用した形跡がありましたが隙間が多く、小屋内が煙充満となると思われます)

疲労や冷えから、体を回復させるために今晩は根菜中心の御飯。
予想通り誰も来ないひっそりとした小屋で静かな夜を過ごした。

雪が小降りになったので出発 ブナ森の中歩く
蟹場分岐 モコモコさんが下る
ブナ森は続く 一時的に天候が穏やかになった 小白森山 また降り出した
大白森山へ向かう 天気が良かったら楽しいところ 大白森山 降りが激しくなってきた
ピンポイントで着いた 小さいがきれいで頼りになる小屋
使えないストーブ 動かない蝶 越冬したのだろうか?



4月30日(雪ときどき曇り夕方から晴れ)
 コースタイム;大白森山荘6:20〜大沢森8:19〜曲崎山巻きはじめ9:27〜巻き終わり10:04〜八瀬森山荘11:56

天気予報では、やっとお昼頃から天候が回復するようなことを言っていた。
もしかすると大深山荘まで行けるかもしれないとの期待がわくが、一日一小屋のペースで行こうと話していたので、まずは八瀬森山荘まで移動することを目標に出発。

昨日同様、重荷なのでアイゼンを装着して出発。
ガスが薄れてきて快適に進めるかと一歩足を踏み出した途端、今日も大変だと思わせられた。
ただでさえ沈んでいたのが、昨日から降った雪が積もって平地で足首上まで斜面になると脛まで潜るようになってしまった。

それでも最初は下りなので方向を定めてぐんぐん進むことができた。
鞍部まで降りると、登山道は雪で埋まっているが標高が低いため藪が完全に埋まっているわけではないので時折踏み抜いたり、藪を避けたりして時間がかかる。
ここは標高が比較的低いところだ。この先標高が上がって積雪量が増えていくことを考えると一日一小屋は現実のものとなりそうだ。
標高999mPを順調に越えて大沢森の登りにかかる。この辺りは尾根が右に左にと曲がるが、樹林の葉が落ちており沢の入り具合がはっきりわかるのがありがたい。

途中なぜか夏道を濃い藪がふさいでいるところがあったが、おおむね雪道状を登っていくとちょっとしたピークに出た。
一瞬大沢森かと思ったが、モコモコさんから「大沢森には道標が立っていたと思うんだけど見当たらないな」との言葉に地形図と周りの地形を照合してみると、大沢森はまだこの先だ。
これにモコモコさんの心が折れたらしく、出発時は内心大深山荘まで行く気でいたらしいが、八瀬森山荘まででいいやと思うようになったらしい。

モコモコさんの心を表すかのようにまたもや雪が降ってきた。
尾根の向きの関係で風雪が当たる中、大沢森に向かう。尾根がはっきりしているので、それぞれが歩きやすいところを歩いた。この辺りは風が吹き抜けるので雪面が固いところがあって歩きやすかった。

実際の大沢森は灌木帯に囲まれた広いピークだった。山頂標識はもともと立っていないのか見つけられなかった。
このときガスで周りが見えなかったので、コンパスを合わせて慎重に方向を定めて下った。

大沢森から曲崎山のとりつきまでは、県境稜線よりも枝尾根のほうがはっきりしていることが多いのでその都度地形図で確認しながら進んだ。
標高1112mpと曲崎山との鞍部への下降点は慎重に定めた。
一下りしたところでちょうどガスが晴れ、尾根の両側に沢の源頭部が入っているのがはっきり見えたことで現在地を確認できた。

ここで一息入れることにした。
ついでに作戦会議。
今日はこの時点までで結構時間がかかっている。昨日宣言した通り一日一小屋で八瀬森山荘までとし、山荘の水場でも掘り出すことにした。また、曲崎山は今日みたいな条件では登る気がせず、地形図を眺めると標高1270〜1280mあたりの傾斜が緩やかなので、一気に巻いてしまおうということにした。

曲崎山の登りに入る。
傾斜は大したことがないが、積雪のためにもぐるので疲れる。
そんな中先行していたモコモコさんから「ネズミー」との声が上がる。なんでもネズミさんが走って木の根回り穴へと入っていったのを目撃したそうだ。
実際に近づいてみたところ、姿は見せてくれなかったが小さな足跡がついていた。
すごいなこんな環境で頑張っている。ネズミさんに元気を分けてもらった感じで登っていくと、曲崎山の真っ白なピークが見えた。

実際にピークを見ると登る気は益々なくなり巻いててしまおうという気持ちが確定した。
標高1250mあたりで巻きに入る。
少し登り気味に進むと、傾斜が一定になった。樹林間隔も混むことなくいい具合だ。
予想以上に歩きやすい。
結構巻いてきたなというころにモコモコさんから「あれ?これってテープ印かな?」と意外な言葉が出た。よく見るとそう見えなくもないし、なにかの皮が引っかかっているようにも見えた。
正規のルートではないし、自然物だろうということになった。しかし、さらに進むと明らかに人工物でできたテープが結び付けられていた。
まだ巻き終わっていない場所であることから、同じように巻いていく人がいたのかなとなんだかうれしくなった。

思ったよりも順調に進み近くに曲崎山から降りてくる尾根が見えるようになった。
同時に藪が出てくるようになったので、適当なところから尾根目指して登ることにした。

登り始めてわずかなところでウサギさんが逃げるところを目撃した。
なんだかうれしい。
尾根に戻り、下り始めると先程のウサギさんと同一と思われるウサギさんがまたもや現れた。
ちらっとしか見えなかった先程と違って今回は、はっきり見ることができた。
すっかり冬毛から夏毛に生え変わっており、本当に飛ぶように走っていた。足跡を観察する。一っ跳びの距離がすごいと改めて感心した。

八瀬森との鞍部はブナ森のいいところだ。靴ひもが緩んだので締め直した。
ここから八瀬森までも、これまで同様県境稜線は要所要所で方向を大きく変えてつながっている。地形を慎重に見定めながら進む。
ちょうど県境尾根が北向きから東向きに変わるところで入山して初めて日が差した。
やったとばかりにサングラスをかけたが、直ぐに曇ってしまった。それどころか再び雪が降ってきた。

うす曇りになったり小雪がちらついたりし、冷たい風が吹き抜けるのは変わらずの中、八瀬森目指して登っていく。
ある程度登って傾斜が緩んだあたりで山頂を巻き気味に通過し、一気に下降にかかる。下降中にやっと雪が完全にやんで明るくなってきた。
八瀬森湿原らしいぽっかりと白く雪原らしきものが見える。

巻き気味に通過したせいか小屋より少し西側に降りたようで、ぽこっと雪原に飛び出た。
小屋の水場近く辺りに出たはずなので、ついでに水場の状況を見てみることにした。
本来の水場よりも上流ではっきりと水が出ていた。

水場の沢まで来ると降りすぎなので少し戻って辺りを見回すと小屋発見。
小屋へ入り早速荷物を下ろす。時計を見るとまだお昼だが、これから大深山荘まで行くとなるとこの条件では日没前にたどり着くのは難しいどころか途中で時間切れになりそうな予感。
一日一小屋が確定した。

水は、本来の水場は汲みにくいので、先ほど確認した上流で汲むことにした。こちらは、鍋がないと汲めないが足場があるので汲みやすかった。
これで水づくりをしないで済むし、何よりも雪を溶かしたものよりもずっとおいしい。燃料節約にもなる。
小屋内は快適だが、隙間があるので結構寒い。
暖かい飲み物を飲んだりして体を温めているうちに、風は強いままだが外は晴れ間が広がってきた。
ラジオを聞くと明日はまた天気が悪いらしい。
先へ進むべきだったかなと思ったが、予定のルートをばっさりカットしたのでかえって余裕ができている。一日一小屋なんて贅沢を味わうのもいいものだとすぐに思い直した。

連休二日目となったが、悪天候が続いているのでこの日も小屋は貸し切りとなった。

冬に逆戻り きれいだけれど寒い
雪で隠れた藪の罠に注意 ガスで視界が悪い
曲崎山 トラバース中に見かけたネジネジの木
曲崎山を巻き終わった この辺りわかりにくい
八瀬森前にある平坦なところ 八瀬森が見えた
八瀬森山荘(到着時なぜかドアが少し開いていた)戸締り注意! 八瀬森湿原
水を汲むことができた 入山して初めて見た青空



5月1日(雪又は雨か霙一時やむ ほぼ一日ガス)
 コースタイム;八瀬森山荘7:57〜1283mp付近10:49〜東ノ又沢源頭の湿原11:59〜大深岳13:41〜源汰ケ岳との分岐13:55〜大深山荘14:16

夜中雨が降り出す音がした。
起きる頃になって静かになったので、「おっ、やんだかな?」と期待して外を見ると雪が降っていた。
ラジオの天気予報では「気圧の谷や上空の寒気の・・・・」もう聞き飽きたこの言葉。要するに今日も天気が悪いらしい。

一日一小屋でも今日は大深岳を越えなければならない。
昨日積雪後を歩いたせいか、脹脛が筋肉痛だ。知らず知らずの内に筋トレをしていたようだ。
雪から雨になったり本降りになったりするので、少し様子を見た。

このまま停滞かなと外を見ると小降りになっていたので、意を決して出発することにする。夏道のコースタイムではわずか4時間足らずだが気象条件と雪面状況から昨日同様コースタイムの5割増しになると予測した。

小屋前の雪原となっている湿原を横切って最初の丘のような標高1168mのピョコに登る。ピョコの1168mのプレートを確認することができた。
関東森まではこの時期関東沢がはっきり見え、葛根田川側が比較的傾斜が強いのでルートがわかりやすい。1168mPからは雪面も締って歩きやすくなった。
夏道だと、倒木や藪で歩きにくかったりするが今回はとても歩きやすい。今まで歩いてきた中で一番快適だった。

関東森は巾着のように沢の源頭部を回り込んでいる場所にあるので、関東森直前は歩く距離を短くするため沢の源頭部を利用して内径をなぞるように進んだ。たどり着いた関東森はこれといった特徴のない場所で、沢の源頭部が見えなければ見過ごしてしまいそうだ。
葛根田川側に気持ちよく伸びている尾根に入らないように、コンパスで慎重に方向を確認して曲がりくねった稜線を進む。

まもなく尾根がはっきりしてくるようになり、やがて登りになる。このあたりはテープ印がいくつか見られた。
標高1233mpを目指していくが、うねった雪面が特徴の混んだ針葉樹林帯になって右に左によけながら行く迷路状態になった。先頭をモコモさんが歩いていたが、あまりにも進路を左右に振りすぎて無駄に歩いているのにうんざりして先頭を交代した。

沢の源頭部が見えて樹林間隔が開けてやっと樹林の迷路から抜け出せたことにほっとした。ヤレヤレだ。
これまでと違い、ガスっており、尾根が広がってくるので方向がわかりにくいが、時折見えるテープ印がありがたい。
コンパスを1283mpに合わせて傾斜が緩いが長い登りにかかる。

樹林の迷路と、緩んだ雪面に足を取られながらで疲れがたまってきているのかちょっとした登りが体に応える。
ようやコースタイムのポイントとなっている道標を見つけたときはうれしかった。道標の周りは風が吹き抜けるためかほとんど潜らないので歩きやすかった。
天気がよければ大白森に遊びに行くのもいいなと当初は計画していたが、そんなことは頭によぎることもなくあっさり通過した。

空はどんよりとしているが、行く先ははっきりと見えた。地図上から言っても天気がよければすぐそこと思えるのだが、今日はとても遠くに思われる。
このあたりの地形としては珍しく明通沢側が切れ落ちた尾根となると1384mPも間近だ。
雪が少ないながらも雪堤状となっていて短くも楽しい登りだ。ここは裏岩手連峰を見渡すことができる場所だが、あいにくガスがかかって見ることはかなわなかった。

1384mP直前になると尾根が広がると同時に雪の踏み抜きが多くなって苦労する。先頭は大丈夫でも2番手はだめといったことも多く、それぞれ行く先で「おわっ、うわっ」と声を上げながらとなった。
踏み抜きからは1384mPまで登りあげたところで解放される。
東ノ又沢源頭の湿原まで一気に下降。

この湿原はとてもきれいなところだった覚えがある。天気がよく花の時期にまた訪れたいな。
大深岳が前方にうっすらと見える。
いよいよ大深岳への長い登りだ。このころから雨が本降りになってきた。大深山荘までゆっくり休める場所はなさそうだ。登りの前に行動食をほおばった。
ダラダラと長い登りをひたすらこなしていくと途中の湿原(しつこいようだが今は雪原)で先程通ったばかりと思われる熊さんの足跡発見。

最近、我々は熊さん目撃率が高い方だと思うようになった。やはり熊さんは遠くから見るものであり、足跡は見つけるだけで楽しいと思った。
記念に熊さんの足跡との記念撮影を行った。天気が悪くて同じような地形の長い登りの中で、つらさを忘れられる楽しい一時だった。
標高が上がったためかいつの間にか雨が雪に変わっていた。ふと前を見ると雪が着いた登山道がうっすらと見えるようになってきた。周りは結構藪が出ているので、登山道は白い絨毯が敷かれた通路に見える。登山道を進むとすぐに斜面をトラバースするようになった。地形図を見ていないがまもなく裏岩手縦走路との合流になるはずだ。

たしか合流点には道標があったはずだよなと進むが、進行方向右手側に沢の切れ込みが見えた。湯ノ沢の源頭部だ。どうやらいつの間にか縦走路と合流していたらしい。以前通ったとき道標は傾いていた記憶があるので、埋まっていて気が付かなかったのかな?
まあいいや、樹林が灌木帯になってきたので風が当たるようになった。加えてガスも濃くなったので登山道を外さないように進む。
一カ所灌木が覆っていたので、歩きやすいところを進んだら少し外すこともあったが、灌木帯の中なので登山道は雪のおかげで逆に白く目立って基本的にわかりやすかった。

困ったのは登山道は踏み抜くことが多く、少しの距離でもとても時間が掛かった。
山頂に着いたときは、踏み抜かないようにする方に気を取られていたのでいつの間にか着いた気持ちだった。
山頂から直接小屋へ向かってもいいが、夏道が分かるので登山道通りに進むことにした。
源太ヶ森との分岐の手前にある草地で一部登山道が隠れていたが、あたりを見回すとぼーっと先に登山道があるのが見えた。ラッキー。その後は踏み抜くことはあってもルートに関しては何も問題なく分岐に到着。

分岐の道標はきちんと出ていた。助かった。
ここからは樹林の中の下りになるので、コンパスを小屋にしっかりと合わせた。
一歩でも無駄に歩きたくないので、GPSとコンパスを併用して慎重にコース取りをする。やがて進行方向右手に切れ落ちた斜面が見えるようになった。ここまでくれば後は切れ落ちた斜面を見ながら降りていけばよい。

道標から小屋までほぼ直線に道が付いているので、切れ落ちた斜面と同じ距離を保ちながらコンパスの指し示す方向へどんどん降りていき、そろそろ小屋があるはずとモコモコさんに声をかけた。後ろを付いて来たモコモコさんが前方を見ると、「あっ小屋だ」とあっさり発見。小屋があまりにも周りの風景に溶け込んでいて自分にはわからなかった。
今晩も乾いた床で風雪(雨)を気にせずに寝られることが約束された。やったね。

小屋に入ってこれまで同様に荷ほどきをし、水作り用の雪取りをすませた。ついでに小屋玄関にあるテラスに積もった雪を軽く除雪した。
外が静かなので天気が回復したかとふと外を見ると深々と雪が降っていた。今日も冬に逆戻りの天気。
連日このような天気が続くと、この連休じゃなくて2月にこの雪が降ればよかったんだよと文句の一つも言いたくなる。

夕飯の支度を済ませて外を見ると、なんとこれまでの悪天候が嘘のように穏やかになって周りの視界もバッチリだ。
なんだか昨日といい夕方になると天気が回復してくるのがムカつくが、やっと見えた山並みは美しかった。

今日の空も重い色 特徴のない地形の中ありがたい道標
珍しく分かりやすい地形 東ノ又沢の源頭湿原に下る
先程通ったばかりのようだ 踏み抜きに苦労して大深岳に登る
大深岳山頂 源太ヶ岳との分岐
今日も無事小屋発見 今日も夕方になって天気回復



5月2日(くもりときどき晴れ)
 コースタイム;大深山荘6:19〜嶮岨森7:42〜諸檜岳11:11〜畚岳分岐12:42〜アスピーテライン13:06〜レストハウス13:20/13:48〜凌雲荘14:20

今日は入山前の天気予報では文句なしの快晴になるはず・・・だったが、ラジオから「今日は気圧の谷の影響で・・・くもり・・・」。
ラジオを投げつけたくなった。それでもやっと雨から解放されるのは嬉しい。

明後日5/4は入山前の天気予報から変わることなく雨で確定しているので予定していた焼山はあっさり取りやめることにした。
前半だけでなく後半もばっさりカットしたため日程が逆にあまってしまった。今日は凌雲荘まで行くのはいいとして、その後どうするかモコモコさんに問われたが、そのときに考えるとしてとにかく出発。それよりも、あまりに早く凌雲荘に着いても日帰りの人で混んでいるだろう、かといって遅く行って小屋が既に満員だったらどうしようという不安の方が大きかった。
その点に関してはモコモコさんは、連休中とはいえ今日は平日だし今日入山する人は天気がいいから大深山荘まで来るだろうし、凌雲荘は空いているか貸し切りじゃないか、と逆に楽観的だった。

今日もアイゼンを着けて出発。
小屋から一歩足を踏み出すと脛まで潜った。あと10cm積もったらワカンがないと無理だったな。実は天気が悪くなり寒気が入る予報を見てワカンを持ってくるかどうか迷ったが、かさばるからという理由で持ってこなかったのだ。
幸い使わなくも大丈夫だったが、ワカンがあればかなり違っていたことも事実だ。この時期の道具の選定は難しい。

嶮岨森との鞍部まで一下り。
昨日と違って視界が開けているのと、尾根がはっきりしているのでわかりやすい。
稜線の縁は雪堤とまでいかないものの樹林がなく歩きやすい。樹海ラインの通る尾根の向こうは雲海だ。いい天気になるぞ。
薄日も差してきた。昨日見られなかった大深岳を振り返り振り返り歩く。岩手山も大きく聳えているのがよく見える。

嶮岨森の登りの前に、鏡沼が見下ろせるようになった。
あまりにも快適そうで、一瞬嶮岨森を巻いてしまいたくなったがせっかく天気がよくなったので素直に稜線をたどるように思い直した。
それが正解で、山頂からの眺めがとてもよかった。

嶮岨森の下りは、登山道にある岩の上にうっすらと雪がかぶっている状態だったので足下に注意して下る。
続く前諸檜岳は比較的雪堤がはっきりできている。昨日まで降雪で亀裂が隠れているので一度大きく踏み抜いてしまったが快適な登り。
山頂直下で、亀裂にはまるのを恐れたモコモコさんが部分的に登山道を進んだので、それを追うことになったため登山道から登った。
登り着いたところはぺろーんとしており、どこが山頂かわからないまま下降。

ぽっかりと白くなった石沼の横まで来たところで、モコモコさんが折角だから沼へ行こうと言いだし沼へと向かってしまう。
戻ってくるのかと思ったら、じーっとこっちを見て待っているので仕方なく後を追った。
「おおっ、すぐ下が凍っている。沼の上だ。」と喜んでいるが、少し進むとピシピシッと氷が割れるいやな音がする。慌てて端へよけた。

踏み抜いて沼に落ちるのやだなとできるだけ端を歩いたが、先頭を歩くモコモコさんは大して気にしていない様子。
すると、あっと思うまもなく踏み抜いて水に足を突っ込んでしまった。踏み抜いた瞬間足を引き抜いたので中まで濡れることはなかったが、気が滅入った。
それに引き替え、こちらを歩くように引き込んで踏み抜きに特に注意することなく先を歩いていたモコモコさんは何ともない。理不尽だ。「こっちに来るからだよ」と文句が出た。

石沼を過ぎたところで、諸檜岳への登りだ。山頂にコンパスを合わせる。
だらだらした登りが続いて小さなピョコらしきところに着いた。てっきりここが諸檜岳だと思ったが、本当の諸檜岳はその先だった。
少し急な樹林の斜面を降りて、藪の中に一本の白い筋を引いたような雪をかぶった登山道で諸檜岳へ向かう。

山頂の標識等はきちんと出ていた。
ここで登山道は直角に曲がる。
登山道に従って進み、少し進んだところで尾根を乗り換えるように今度は反対側に直角に曲がるのがわかりにくい。雪で覆われているので山頂からまっすぐ鞍部へ向かって降りても大丈夫そうだが、樹林が混んでいるのと鞍部には既に雪がなかったので夏道通りに行くのが正解に思えた。

鞍部は案の定かなり藪が出ており、登山道に出ないとかなり苦労しただろう。
目の前の標高1452mのピョコの周辺はまだ雪上歩きができた。登山道が分かるところ登山道をたどるが、踏み抜くこと多数。一気に疲れた。
畚岳が目の前にドーンと立ちはだかる。

荷物を下ろして休憩する。
休憩中にモコモコさんから「あれ登る?」と聞かれたが、即座に「登らないよ」と答えた。続いて「もうすぐ樹海ラインだ。道路に出れば実質終わったようなものだな。」と話すと「そうだね、なんだかあっという間だな。」と少し寂しそうだった。
などと話していると突然尾根の向こう側から人が現れた。
今まで動物さんの足跡は見たものの、誰一人会わないどころか人の足跡すら一切見なかったのが、何の前触れもなくいきなり人の姿を見たのでとても驚いた。

モコモコさんは人に遭遇した熊のような慌てようで、なんだか動物指数が高くなってしまったようだ。
その人物はこちらに来る様子はなく、すぐに姿が見えなくなってしまった。
我々も人のいた方向へと歩を進めると、先ほどの方のトレースと合流した。スキーで来ているらしい。畚岳に目をやると、畚岳を登っている最中だった。

畚岳のことをただ急なだけの小さなピークだと馬鹿にしていたが、こうやって見ると切り立ったところがあったりするなかなか立派な山だ。
今まで馬鹿にしていてごめんよ。
分岐から適当に雪面をつないで歩いていると、すぐにスキーのトレースは藤七温泉から直接上がってきたのか我々の行く方向とは別の方向へと離れていった。

再びノートレースに戻ると熊さんの足跡発見。時間がかなり経っているが記念撮影をした。
道路直前で藪が出てしまったので、途中から登山道を使って例のごとく踏み抜いたりしながら道路へ飛び出た。
昨日天気が悪かったためか、平日にも関わらず車がたくさん行き交っている。

レストハウスまで車道歩きになるためアイゼンを外していると、他県ナンバーが目立つ。東北地方だけでなく関東関西方面のナンバーもよく見かけた。
おそらく例年よりもずっと低いであろう雪の壁を眺めたり突いたり、蕗の薹の出具合を観察しながらのんびりとレストハウスへ向かった。

レストハウスのバス停留所となる秋田県側の駐車場では除雪作業が行われていた。
岩手県側の駐車場は一段高いところにあるため、皆こちらに駐車するようで多くの人で賑わっていた。
レストハウスでゆっくりするつもりだったが、場違いな場所に来てしまったようですっかりお上りさんの気分。
落ち着かないので、トイレだけ済ませて陵雲荘に向かうことにした。

トイレを済ませると、モコモコさんが落ち着かない様子で出てきた。なんでもトイレットペーパーが切れているところばかりなので別の階のトイレへ行くそうだ。
その間にビールの自動販売機があったので、3本仕入れた。
このときは1本多いかなと思ったが、結果的にちょうどだった。トイレのついでに売店を覗いたモコモコさんによると、特に買いたいものはなかったそう。

用事を済ませたところでレストハウスから八幡平頂上までは多くの人が行き交ったようでトレースがばっちりついている。
観光で来ても散策できるように、レンタル長靴やスノーシューがあった。
レストハウスから見えた建物に着いた。この建物はトイレだ。
何人かの人と会うが、皆下山する人だった。

陵雲荘はすぐに見えるようになるが八幡沼の対岸に位置するので、ぐるっと回り込むことになる。
途中の見晴台まで多数のトレースがあり、見晴台にまだ人がいたが観光のようだ。
観光の人は大抵がここまでのようで、見晴台から一気にトレースの数が減った。山荘へと向かった新しい足跡も見当たらない。本当に貸し切りになるかもしれないと小屋へ向かうと、人影が。

おや?何か作業している、雪取りでもしているのかなと近づくと、小屋前の雪の斜面に階段をつけてくれていた。
おかげで楽に小屋のテラスに上がることができた。
早速小屋に入り荷ほどきをする。
雪取りに外に出ている間に、先ほど作業されていた方とモコモコさんが話していた。

作業されていた方は、このあたりの自然管理人の方の一人(管理人さんは4人いらっしゃるようだ)でHさんとおっしゃる方だった。
偶然にも昨晩読んだ大深山荘の小屋ノートに、連休直前に書き込みされていた方だった。
連休に入ってからの気象や登山道の様子、アスピーテラインのことなど情報交換したところ、Hさんから、今年は雪が少ないくせに全く締らず踏み抜きがひどくワカンでも大変、アスピーテラインは昨日通行止めだった、この気象条件の中よく歩いたお疲れ様とねぎらいの言葉をいただいた。

作業を終えたHさんが去ってしまうと、小屋内は2人だけの貸し切りとなった。
明日は小屋へ荷物を置いて茶臼岳を往復してこようかという話になり、わざわざ靴を脱いで梯子を登って2階まで上がる人はいないだろうと予想して2階に荷物をあげることになった。
その場合でも、生活は下でするほうが便利だろう。寝るときだけ2階に上がろうかという案も出たが、結局面倒だと言うことになり最初からすべて荷物を2階へ上げることにした。

夕方になり、青年男性が到着。
茶臼岳方面からやってきたらしい。
後ほど青年と話すと、久慈にお住まいとのこと。青年によれば、久慈では雪はほとんど積もらないとのことで、内陸はやはり雪が多いとのこと。
そこで、桜のことに話題が移り我々の住む千葉では1月も前に桜は咲いて入学式の頃は桜が残るか心配すると話すと、久慈ではその頃雪が降るのは珍しくないとのこと。

同じ県内でもこの違い、千葉と岩手では季節に大きな違いがあって当然だな。
気候や文化の違いがあって日本って面白いね。
入山して初めて天気の心配もなく、同宿の方の存在がある穏やかな夜だった。

今日は視界がいい 結構潜る
樹海ラインと雲海 大深岳を振り返る
このあたりは比較的尾根がわかりやすい 鏡沼
秋田駒ヶ岳 本来ならあの山の向こうから歩いてくるはずだった 険岨森直前 ウサギさんは今日も元気に活動している
険岨森 山頂から岩手山
石沼 この辺りは藪が出ている
歩いてきた稜線が見えた 諸檜岳
畚岳 スキー登山者が畚岳を登っている
樹海ラインが見えた 実質終了は間もなく 八幡沼のほとりに建つ凌雲荘



5月3日(晴れのちくもり)
 凌雲荘でのんびり停滞

久慈から来た青年は、当初は裏岩手方面へ縦走する予定であったが明日の天気が悪いためこのまま下山するということで、さわやかに出発していった。
我々も天気のいい今日の内に下山・・・と行きたいところだが、明日の晩の夜行バスまで時間がたっぷりあるというよりもバスの時間まで帰ることができないので今日一日過ごすところと泊まる場所を考えなければならない。
 
明日はまた天気が悪い。
結局まともに穏やかに晴れたのは、今日の午前中だけ。
昨日は茶臼岳を往復してくる予定だったが、なにしろここは車の通るレストハウスから30分ほどで着いてしまう場所。梯子で上がる2階とはいえ荷物を置いていくのも心配。ならば一時間だけでものんびり近くを散策でもすればいいのだが、面倒になってしまい、出かけもせずにシュラフなどを干して過ごした。

10:00頃になると、人が入れ替わり立ち代わりで小屋を訪れるようになった。
モコモコさんのいう通りわざわざ靴を脱いで2階まで上がってくる人はいなかった。賑やかな下に降りていく気にはなれず2階で息をひそめて過ごした。言葉通り借りてきた猫状態。

居心地の悪さに、後生掛温泉へ降りて湯治部屋に泊まれないかな?とモコモコさんに相談するが、連休中だから空いてないよばっさり切られる。それならば違う小屋に泊まろう、バスで松川温泉へ移動して三ツ石山荘へ登り翌日は比較的バスの本数が多い網張温泉へ降りようということになったが、重要なことにモコモコさんが気づく。
バスの乗り継ぎが確実にできるかどうかわからないとのことだ。
レストハウスに行って確かめてこようかといろいろ検討したが、結局面倒だということになり連泊決定。どうやらこの山行中、我々には「面倒くさがり」という妖怪が取り憑いたようだ(冗談ですよ)。
明日のことは明日考えよう。ということで、入山してから一番天気がよく条件がいい日に小屋から一歩も動かず停滞するというおかしなことになった。
こういう贅沢もいいだろう。

うだうだ過ごしているうちに、日帰りの訪問客が引けていった。
今晩の宿泊者は我々の他に地元の男性1人のみ。
昨日の青年同様に気持ちのいい方で、上品な紳士だ。お陰様で楽しく過ごすことができた。昨日の青年は装備が何もかも新しく最新のものだったが、この男性は雪山賛歌が良く似合う道具と最新の道具を厳選して持ち歩いている素敵な方だった(以降、雪山紳士と呼ばせていただきます)。いろいろと勉強になりましたありがとうございました。


5月4日(雨のちくもり)
 コースタイム;凌雲荘9:02〜レストハウス9:30/10:02〜後生掛温泉12:37

 昨日の午後から強くなった風は夜になってから増々強まり一晩中荒れていた。
モコモコさんは風の音や風で小屋が震動するためによく寝られなかったらしいが、反対に自分は今日は下山するだけという気楽さからか入山してから一番よく眠ることができた。

雪山紳士はレストハウスに下山して天候の回復を待ってから周辺を滑り、藤七温泉に入って帰宅するとのことだ
さて我々はどうしようかということになる。後生掛温泉へ下山するのは二人の意見が一致しているが、いつ出発するかレストハウスからバスで移動するか歩くかでもめる。

レストハウスからバスが出ているならば、バスの時間まで小屋で待機していたいのに対して、モコモコさんは、バスが運行しているかどうかわからないし、雨が一番強くなるが風は比較的穏やかな午前中の早くにレストハウスへ降りてしまいたいと言ってくる。

ごろ寝を決め込もうとするが、モコモコさんから強制的にパッキングさせられた。
結局出発することになった。雪山紳士は我々より一足先に出発していった。
小屋から一歩出るとガスガスだが、きちんとデフ棒が立っているので迷うことなく進めた。

さすがに今日登ってくる人はいないだろうと思っていたが、なんと観光の男性2人が登ってきた。
そのあと男性1人が登ってきた。この人はこのあたりの従業員のような感じがした。
悪天候の中すごいなと思って歩いていると、あっという間にレストハウスが見えた。
一昨日はアスピーテラインから一歩入ると全面雪だったが、今日は道路に降りる階段がすっかり出ていた。
あっという間に融けたらしい。

レストハウスへ到着し、バスの時刻表を確認すると調べてきた通り一番早いバスで12:00すぎだ。
それまで待ってはいられない。
意地もあったし、せめて乳頭温泉から御生掛温泉まで歩いたラインを繋げたかった。

結果、後生掛温泉まで歩くことにした。こんな気象なのでアスピーテラインを歩くことにした。
腹ごしらえをして雪山紳士に挨拶をして再出発。

雨とともに冷たい風が吹き付けてくる中、車に注意して道路を歩く。
雪の壁になっているところは風除けになって穏やかになるのが助かる。
最初は緩やかなカーブだが、だんだん九十九折りの道になってくると、ばんばん車が行き交う道路歩きが嫌になった。
ちょうど雪の壁が低くなっているところから道路をはずれ、登山道沿いに行くことにした。

コンパスを夏道が道路に降りるところに合わせて樹林の雪面を下っていく。登山道は道路とつかず離れずにつけられており、下り始めるとテープやスキーツアールート標を見ることができた。
それらに助けられながら夏道通りに再びアスピーテラインに降り立った。ちょうど沢の源頭部が急激に落ち込んでいるところだった。これから温泉街道ともいってもいいくらい温泉が続くところだけあって、沢にお湯が沸いているらしく湯気が上がっていた。
降り立った場所は、アスピーテラインのゲートのそばで少し進むと蒸ノ湯温泉入口にあるトイレがあった。

屋根付きベンチが併設されているので、ここでトイレ休憩としてついでに行動食をかじった。
後生掛温泉まで再び道路を歩く。その間に雨が止んだ。
下方先にスキー場とビジターセンターが見えると後生掛温泉のバス停はまもなくだった。
バスの時間を確認して温泉へ。

入口はバス停から数分歩いたところにあるが、その途中の道路脇には多くの車が停まっていた。温泉は大盛況らしい。
日帰り入浴は専用の入口があった。
玄関前で入浴の準備をして受付を済ませた。入浴(500円)の他に広間で休憩もできるらしい。
ちょうど休憩場所が空いていたので休憩付き(\800入浴料込)で入ることができた。

休憩所は人数制限しているので広々と使える。
早速お風呂に入ると、混雑しているがごみごみした感じもなくゆっくりと頭の先から足先まですっかり冷えてしまった体をあたためることができた。箱蒸はなんだか怖くて入ることができなかったが、期待を裏切らずいい湯でここまで来てよかった。

一方、モコモコさんは、松川温泉の某宿と違ってお湯の出る蛇口が複数あるのでシャワーがなくても平気だし、ドライヤーもないが休憩室が暖かいので自然乾燥できるから平気。気に入ったとのこと。泥湯が混んでいて入れなかったのが残念とのこと。
食堂でご飯を食べたり、もう一度入浴したり(今度は箱蒸に挑戦、モコモコさんは相変わらず混んでいる泥湯に気合いで入ったようだ )、くつろいだりとのんびりしすぎて、最後あわただしくなってしまったが、予定通りのバスに乗って本来歩くはずだったところを眺めながら玉川温泉へ到着。
こちらも大盛況のようだ。

玉川温泉と新玉川温泉の間に何人か乗客がいたが、それ以外の区間では貸し切りバス状態で田沢湖駅に到着。ちょうどぐるっと回ってきたことになった。
電車への乗り換えも順調にこなして盛岡駅に到着。
駅近くの居酒屋で打ち上げをして、今日も2号車まで出ている満員の夜行バス「らくちん号」に揺られて帰宅した。

予定の半分もこなせなかったし、一日に移動した距離も短いが、この時期特有の静かな山を満喫して快適な小屋泊りを楽しんだ贅沢な山旅になった。たまにはこういうのもいいものだと思った。

登山道がアスピーテラインに出たところにある沢
 お湯が沸いているらしい
後生掛温泉 大盛況


登山メモ
・寒いので最終日の凌雲荘宿泊以外は、小屋内でテントを使用させてもらった。
・燃料ガス500缶×1 少しだけ使用。残量ほぼ満タン。
・ホワイトガソリン 887ミリリットル×1 残量0
            887ミリリットル×1 残量3分の1
            665ミリリットル×1 満タン
・ワカンは無くても何とかなった。
・手袋テムレス、雨にも役に立った。
・新聞紙、初日から靴内部が濡れて乾燥に役立った。
(馬鹿にしていたが、詰め込んで取り替えて、その間に新聞を干す。朝までに気にならないくらいまで乾いた。
中敷きも新聞紙に挟んで水気を取って乾かした。
・HOTタイプのペットボトル
(熱湯を入れてびしょ濡れの靴下に入れるとよく乾いた。夜は湯たんぽに使用)
・GPS 電池は常時使用して3セット使用
・無線 朝日連峰の無線が傍受できるか試したが距離と位置関係で傍受できなかった
・ポカリスエットの粉  寒くて飲む機会なし


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