山域 南アルプス
コース 椹島〜奥西河内〜小赤石岳〜大倉尾根〜椹島
〜ピリリと辛かったよ〜
日程 2017年7月22日〜7月25日
数年前に行った南アルプスの沢がとてもよかったので、今年また行きたくなった。
今年はあまり沢に登りこんでいなかったため、直前にプレ山行として近場の沢で遡下降訓練を為ておくつもりだったが、二人とも交代で風邪を引いてしまい山どころではなくなってしまった。
南アルプス遠征に向けて全力で完治に努めたが、出発直前まで具合が悪かったモコモコさんは特に体力面で不安が残るところ。
データ アプローチ
竹橋23:00-《毎日アルペン号》-畑薙臨時駐車場5:30/6:30-東海フォレスト送迎バス−椹島7:30

コースタイム(天気)
7月22日(晴れのちくもり時々雨)
椹島〜吊り橋〜第1堰堤〜第2堰堤〜樺沢〜北沢出合〜(幕営地)
7月23日(くもりのちガス夕方雨)
幕営地6:13〜上砂沢出合6:41〜大滝下10:00〜大滝上11:30/11:50〜小屋跡13:45〜標高2900m付近BP16:00(幕営)
7月24日(ガスのち晴れ)
BP5:05〜登山道5:25〜小赤石岳6:05〜赤石小屋9:01/9:33〜椹島13:43


7月22日(晴れのちくもり時々雨)
コースタイム;

車を持たない我々にとって、早朝に到着できる唯一の手段となる「毎日アルペン号」でのアプローチ。

八王子を最後に乗車してくる人は居なくなるので、改めて席を見ると前方に空席がある。運転手さんも席を移動してもいいと言ってくれたので、移動して座席を倒すことが出来た。
ウトウト状態であるが、合算して数時間はなんとか寝られた。

バスは一度沼平までの人を下ろしてから東海フォレストの送迎バス乗り場のある臨時駐車場に引き替えして全員下車となる。
下りてすぐにモコモコさんはバスの順番取りに向かい、戻ったところで荷物を受け取った山人が列へと急いで並んで二人とも第1便に乗れる順番を手に入れた。
始発は7:30。結構待つなあと時間をもてあましていると、臨時便で6:30発のバスがやってきた。

乗車時に3000円/人を支払い今晩の宿泊先を告げて乗り込む。
補助席まで使って定員まで乗せていくので、ザックは膝に乗せて行くことになる。
途中ダム堰堤を渡る辺りで、運転手さんが小屋との無線連絡をした。今晩の小屋泊の人数を報告するようだ。
我々は今晩沢泊であるが、我々以外にも小屋以外の所で泊まる人が居るらしい。

すると小屋側から具体的にどこにとまるのか教えろと更に無線が入る。すると我々が答える前にすかさず「奥西河内」と後方から声があがった。
計画を立てるときに参考になる記録はないか調べたら、ほとんど見つからなかったので、なんだか全然人気のない沢なんだなと思っていただけに、我々以外の入渓者がいるとは意外だった。後にこの方々(男女二人組のHさんとIさん。以降HさんP(パーティ)とします)に運命を共にし、とてもお世話になるとはこのとき知るよしもなかった。

連絡が済むと、いよいよザック膝載せ状態で、ゴトゴトカーブの続く道となる。乗っているだけなのに結構疲れる。これが噂に聞いていた「どんなに眠くても寝られない送迎バスか」と思いながら揺られること約1時間。
想像以上に広くて立派な椹島に到着。

トイレを済ませたりのんびりしてしまい、行き先が一緒の方だけでなく大抵の方が出発してしまった後にテクテク出発。
椹島は一度大きく下りてきているので、登り返しから始まる。
すでに汗が落ちてくる。千枚小屋への登山道へ入ると、すぐにトラバース道となって滝見橋と呼ばれる場所となる。ここまでで既にのどが渇いてしまったのでのどを潤す。

トラバース道はすぐに終わり森の中の道となって、吊り橋を架ける。この下に流れている沢が我々が入る沢だ。
吊り橋を渡った先から登山道を外れて、踏み跡のような所を辿って沢に下りた。
入渓してすぐに人の足跡を発見。先に出発したあの人たちかな?と推測しながら進むとすぐ先に釣り人が居た。
幸い快く先に通してくれた。

しばらく進むと堰堤に到着。吊り橋を渡るときに「500m先に堰堤あり急な増水に注意」との案内板があったので、吊り橋からちょうど500m来たことがわかる。
魚道を使って堰堤を越えた。
堰堤上は多少水が増えるものの全く問題ない。

すぐに、なんともいえない色をした淵を持つ小滝が現れた。
初っぱなから泳いでの取付きかなと周りをぐるりと見回すと、右岸にはどう行けばいいのといった感じでロープが数本ぶら下がっている。こっちは無理だ。左岸に目をやると、岩がバンド状になって簡単に巻けそうなので、こちらに取り付いてみる。思った通り容易にバンドに乗り上げる。一歩が嫌らしいなと思ったところにはロープが張られていた。
最後は少し高さがあるが、ゆっくり沢へと下りれば問題ない。
後ほどH氏から聞いて分かったのだが、ここを鶴首というらしい。

いきなりやられた感があるが、この後は延々河原歩きとなった。

皆同じような所を歩くようになるので、所々残っている足跡に自分の足跡を重ねることもある。よく見てみると、先行しているのは4〜5人いるようだ。
地形図を見ると、林道がかなり奥まで延びているようなので、その辺りまでは釣り人も結構入っているのかも知れないなと話していると、まさしくその通りで、先行する釣り人発見。この方も快く先に行かせてくれた。

グネグネ曲りながら一行に高度を上げない単調な渓相なので、現在地が今ひとつ分からない。途中で林道が横切るはずであるがそれらしき所はなく、先にあるはずの堰堤まだかなーとウンザリ加減で歩いて居ると、前方にようやく人工物が現れた。
第二堰堤だ。

堰堤下まで大岩をヨイショと越えていくと、堰堤には水が流れておらず乾いていた。左岸には堰堤を越えるための階段が付いていたが、直接登った方が早いだろうと言うことで、堰堤のコンクリート斜面を登ると、渓相が一変した。
これまでは、単なる広いゴーロの歩きだったのが、沢幅いっぱいに堂々と流れる水量たっぷりの沢となった。
堰堤でかなりの量の水が取水されて、これまでは牙が抜かれていた状態だったのだ。
これが本来のこの沢の姿なのだ。

なんだかすごいな、さすが南アルプススケールが大きいなと先に目をやると、先行していたHさんたちが休憩していた。
ここで初めて挨拶を交わす。
HさんPはリニアのトンネル掘削による南アルプスへ影響の調査に入ったとのことだ。
久しぶりの沢登りでペースが上がらないというHさんPとモコモコ係数を掛けた我々とはほぼ同じペースとなり、前後して歩くことになった。

水量が倍以上にふくれあがり、輪を掛けて大きくなった巨岩を縫いながら渡渉を繰り返して進む。渡渉も好き勝手に出来たこれまでと違って、渡る場所を選ぶようになり、巨岩の乗り越しで手こずることもあったり、なんでもないように見えて進めないところを巻いたりと、堰堤から樺(かんば)沢出合まで距離の割には時間が掛かってしまった。この頃から雨もポツポツ降り始める。
幸い雨具を着るほどでもない。
相変わらずの巨岩のゴーロ帯をえっちらおっちら進むと、北沢出合手前で釣り人発見。釣り人の居る場所は巻いて通過させてもらった。

そうこうしているうちに北沢出合に到着。
けっこう広い場所なので探せば泊まり場はみつかりそうだ。

左岸から入る北沢の方が開けて真っ直ぐ水量豊富に流れているのでこちらが本流に見えるが、本流は右岸から出合う沢のほうだ。
出合の本流側の右岸に泊まるのによさそうなところがあったが、明日の標高差を考えて出来るだけ進んでおいた方が良いだろうと思い先に進む。
しかし、以外に奥まで釣り人が入っていたので、この先泊まる場所がないかもしれないことを想定して、15:00頃には泊まれるようなところを探しながら行く。
北沢を過ぎると、沢は一気に狭まり両岸も荒れている。土砂が堆積したらしきところもあるが、出水で削られたのか二人でも並んで寝られるような所はない。

そうこうしているうちに雨が本格的に降ってきた。
岩陰で雨具を羽織り、HさんPと幕営地の相談。HさんPは軽く休憩をしていくとのことなので、我々は先行していく。途中平らなところがあったが余りに水線に近い。天気が良ければいいが雨がぱらつく今日は特に避けたい。そのすぐ上になんとかなりそうな土砂が堆積したところがあったが、かなり削られてとても狭い。候補にいれておいて、すぐ先に巨岩が作り出す滝が見える左岸に台地が見えるので、幕営地にならないか期待して台地上に登ってみる。

思ったよりも平坦な所はなく、かろうじて二人ならば横になれる場所が見つかったが、水の便がとても悪い。今晩の献立は焼き物中心なので、焚き火は必須だが、乾いた針葉樹林帯なので水の便が悪いと火の始末が大変そうだ。
思案していると、HさんPも到着。
あまり快適そうでない様子にお二人ともがっかりした様子。
もう少しいいところはないか周りを探ってみるがない。

4人で過ごすにはここはあまり快適でないので、我々は先ほど目星をつけておいた所(右岸)で泊まることにしてHさんPに場所を譲った。
我々が泊まることにした場所とは余り離れて居なかったので、すぐに幕営場所に着いて準備に取りかかることができた。
案の定寝場所は狭くてボコボコだったが、整地を頑張ってなんとか二人横になれるようになった。
乾いた薪が豊富だったのですぐに火が付き焚き火に当たることができた。

泊まり場からHさんPの泊まって居るであろう辺りを見るが、焚き火の煙が上がっていない。
焚き火は諦めたらしく、変なところを譲ってしまったかな?と少し申し訳なかった。
ご飯を炊く準備もできて、落ち着いてきた頃に雨が降ってきた。

まだ食事が済んでいなかったので、モコモコさんが隠し装備として持ってきていたツエルト用の小型タープを張った。出発前にしつこく軽量化のために置いていくようにモコモコさんに言っていた装備であるが、頑として置いていくことをよしとしなかったモコモコさんの判断は正しかった。
お陰で燃料の節約となり、濡れて冷えた体を温めることが出来たので寝心地が悪い割にはよく寝られた。


登山届を出したりしながらバスを待つ きれいなトイレと自炊場
まるで高原のリゾート地のような椹島レストハウス ここで一杯やりたいねー(後日実現する)
自炊場 奥のテーブルで食事ができ、右に入ると洗面所がある 山の神様にご挨拶して出発
よく手入れされた登山道を行く 奥西河内沢の吊り橋を渡った先から入渓
水量少なく楽勝か? 第1堰堤 魚道を登って越えた
鶴首 左岸の岩棚に上がって通過した しばらく渓は狭まった状態が続く
こんな連瀑や 小滝もあって美しいところ
開けてくると 巨岩帯になる
巨岩帯を越えていく 第2堰堤 乾いた斜面を登った
堰堤を越えると水量が倍以上にふくれあがった 堰堤によって牙が抜かれていたらしい
渓が広いので威圧感はない しかし渡渉点には気を使う
野太い流れと巨岩をやり過ごしていく (HさんPは巻いていた) 放水路のような見事な流れ
開けると穏やかな流れ こういった小滝はほぼ全てどちらかを小さく巻いて越える
北沢を過ぎて雨も降ってきたこともあり幕営地が欲しくなってきた なんとか焚き火に当たることができた


7月23日(くもりのちガス夕方雨)
コースタイム; 幕営地6:13〜上砂沢出合6:41〜大滝下10:00〜大滝上11:30/11:50〜小屋跡13:45〜標高2900m付近BP16:00(幕営)

パラパラ雨が降る音がしたが、起きる頃にはやんでくれた。
まだ暗い内に起きて焚き火をつける。天気は期待外れでくもりで、稜線にはガスがかかっており、今にもここまで下りてきそうだ。
お湯を沸かしたりしていると、HさんPも起きたらしくヘッドランプの明りが見える。

今日は大滝を超える日。気合いを入れて出発。
相変わらずの巨岩をヨイショと越えていくと、インゼルのような所になった。
沢沿いは水量多く早朝でまだ水を冷たく感じるので、巻気味にインゼルへ入って登っていくとHさんPが到着していた。挨拶を交わすと、上砂沢との出合かどうか判断しかねているようだった。

右岸から入る沢の方が開けて水量も多そうに感じる。対して左岸から入る沢は樹林で薄暗く水流が分かれているせいか本流には見えない。
地形図と照らし合わせて、上砂沢出合と断定。ということで左岸の本流へと入る。
ここからはこれまでと違ってぐんぐん高度を上げていくようになる。

いくつかの滝を直登したり小さく巻いたりしながら進む。いずれも簡単。両岸とも樹林がかなり沢とも近くまで下りているが、泊まり場になりそうな所はない。上砂沢出合付近荒れていい感じではなかったので昨日はあそこでやめておいて正解だった。

奥西河内沢出合に着くと、本谷となる方向にはいかにも何かあるぞと言わんばかりにそびえ立つ岸壁が見える。
本谷に入ると、道理で水が冷たいわけだ。スノーブロックが残っていた。幸いブリッジになっておらず、ブロックも変な残り方をしていないので難なく通過

ブロック地帯を抜けるとすぐにこれまでと一変して連瀑帯となった。一段目8mトイ状滝は右を登れそうだが、右上部のエイリアンの頭っぽい岩が手がかりがなく難しそうだ。
今回はハーケンハンマーはおろかカムも持ってきていないので、左岸を浅くトラバース気味に巻いてみたが、傾斜が強く支点も取れないのでリスクが大きいので引き返した。

古いガイドでは快適に登っていけるなどと書いてあるので、HさんPは直登を試みると言って一度下りていった。
様子をうかがっていると、さすがクライマーHさん中段まではすんなり上がれたようだ。しかし、その後ハーケンを打つ音が聞こえた。その音を聞いて我々は迷わず別ルートの巻を選択。

仕切り直し今度は再び左岸から。ザイルを出してさらに上部の草付を登り樹林の生え際まで上がる。樹林帯へ入るには段差があり大変そうなのと、このままトラバースできそうなので上流に向かおうとすると、HさんPも巻き上がってきた。お話を伺うと、ぬめりが酷くて直登は危なそうだとのことだった。

例えあの滝が登れてもその先の滝が登れそうもないので、我々にとっては一気に巻くのが正解なようだ。
樹林帯に上がれそうなところまでトラバースをして、少し悪い斜面を数m登って樹林帯に入ってザイルを解除した。
あとは樹林帯をトラバースして、途中でルンゼを横断した先から、滝の落ち口を目指して樹林帯を慎重に下降すると調度落ち口の上だった。

さらに進むと5m小釜滝。モコモコさんにお助け紐を出した。
小滝を登り沢が左に曲がると出ました60m大滝。
本谷に入るまでのあのゴーロを取り戻すかのような見事な直瀑。あまりにも大きくてカメラには収まりきらない。

もちろん登れないので、巻の偵察を兼ねて滝壺まで行ってみる。
後続がなかなか来ないが、空身になったモコモコさんがやがて現れたので修行写真を撮ってもらう。釜は意外と浅い。
その後巻の取り付きをモコモコさんに提案すると、そこじゃないよとあっさり却下。それじゃどこなんだよと聞くと、小滝を越えて沢が曲がった直後に右岸にあるルンゼ状のガリーから巻に入るとな。
戻るとHさんPが巻のルートの検討をしていた。

まずは我々が先行させてもらう。このガリーには土や倒木やらが詰まって、落石が酷い。体一つ分程度の幅しかないので逃げ場がなく、お互い落石に注意しながら登ると、倒木が詰まったような所になった。ここにどうやって使ったのか分からないがドロドロの残置ロープがあった。
登るのは容易だが倒木にザックが引っかかって抜けるのが大変だ。ようやく抜けた先で行き詰まる。

倒木の先にCSがある。仕方が無いのでルンゼ左岸の草付リッジに一度這い上がるが、なかなかカチっとしたホールドがなく苦労した。無事リッジに這い上がり数m登った先でルンゼに戻る。調度戻ったところにがっちりと埋まった倒木があったので、セルフビレイを取ってモコモコさんを確保する。モコモコさんも最初の倒木の罠を抜け出すのを手こずっているようで、HさんPに指示をもらって抜け出していた。ようやくモコモコさんが登ることになり「テンション懸けちゃうかもしれない」と言われ気を引き締めて確保するが、無事登ってきた。

クライマーのHさんPは全くの問題なしで抜けてきた。
難所は越えたようでその先は確保なしで行ける。相変わらず落石の多いルンゼを数m詰め上がると尾根の少し平坦になった所に登り上げた。
後続にOKを出してモコモコさんが上がったのを確認して、今上がってきたルンゼ右岸に張り出している痩せた岩尾根、滝見台と言われているところに行ってみる。
なるほど確かに滝見台だ。滝の全身が撮影できた。見事な眺めなのでモコモコさんを誘うが、「なんだか怖いから行かない」と言われた。確かにちょっと怖いな。

全員無事揃ったところで作戦会議。このまま滝落ち口に延びる岩混じりの尾根を直登しようとしたが、尾根をさら巻くことをモコモコさんが強調。
Hさんが持つ資料によると、モコモコルートをとっている。そこで、Hさんと先を覗いてみると、尾根の大岩の基部がバンドのようになっており尾根を巻けそうだ。
試しに行ってみると、思ったよりもしっかりしており尾根の左に見えていた広めのルンゼに辿り着いた。

ガラガラ岩が積み重なるルンゼを上り詰めていく。その途中モコモコさんが直径40cmほどの岩を太股に直撃させて痛がっていた。幸い落ちたと言うよりも倒れたという感じだったので打撲で済んだらしい。南アルプスは石が不安定なので要注意だ。
さきほど登ろうとしていた尾根の傾斜が緩み穏やかになった辺りでルンゼから尾根に移り登って行く。尾根はとても歩きやすくなっており、沢を目指していくとすぐに沢の流れが見えた。下りやすいところから下降すると落ち口付近にぴたりと下りられた。

下りた所で休憩を取る。
時間を見るとまだ11:30。荒川小屋には14:30頃には着くだろうと皆で喜ぶ。モコモコさんに至っては、「今日天気悪いから小屋泊まりにしちゃう?、食事付にしちゃおうか?あ、でもカレーだったら素泊まりでいいや。」などと言っていて、今考えるとおバカすぎるやりとりだ。

大滝上は一気に穏やかになる。
天気は良くないが、「ここいい天場になるね」「そうだね、でも泊まるには早すぎるよ」とすっかりお気楽モード。この先地獄が待っているとも知らずに。
熊の糞を見つけて喜んだりしていると、何本か立て続きに小沢が入る。モコモコさんから「この沢を登ればダイレクトに荒川小屋に出るはず」と言われるが、ここは正当に大聖寺平へ詰めようということになり、本流を進むと石組みの小屋跡がでてきた。
石積みは結構崩れているが、またはっきりと小屋跡だと分かる。

ここまで来て完全に油断した。ここで大聖寺平にコンパスを合わせておけばよかったのに、過去の少ない記録を見ると皆迷わず大聖寺平に抜けているのでそのまま沢を詰めていけば自動的に導かれるのだと思っていた。
やがて水涸れしいよいよ詰めの藪かとおもったら水流が復活した。復活したのもつかの間沢はハイマツと灌木の藪に覆われてしまった。ヒイヒイ言いながら登って行くが、一向に登山道が見えない。濃いガスで視界が全く効かないとはいえおかしい。

やがて腕時計の高度計が大聖寺平の高度を追い越してしまった。天気がよくないとはいえここまでの高度まできて登山道が見えないのは益々おかしい。
とうとうモコモコさんからストップがかかる。地形図を見て標高3030mの小赤石岳に突き上げる沢に入ったのではないかということだった。
そこで思い切って方向を大聖寺平に近づくように右に降りるが、藪が酷くなり結局元のルンゼに戻ってしまった。

ここまでくるとルンゼと言うよりもガラガラ崩れる単なる斜面。ガスと寒風の吹きすさぶ中、皆防寒防風対策をして黙々登って行くがとうとう16:00になってしまった。
改めて作戦会議。このまま登って無事登山道に出ても荒川小屋に着くのは18:00頃になってしまうだろう。
登山道でビバークとなると、水もなくこの天候と風では一晩耐えられないだろう。(後日わかったことだが、この日赤石岳は風速30mの風が吹いて、小屋にたどり着けず救助要請した人が出たほどだった。)ここなら偶然にも雪渓が残っていて、なんとか水は確保できるしビバークして体力を温存して明日登った方がいいだろうということになった。

ガラガラの急斜面でなんとか二人座れるような場所を見つけてそこにHさんPがビバーク。我々は、そこから30mほど下りたところに同じようなところを見つけ、沢中で落ちていた枝を下山時の杖にしようと持ってきていたので、杖を使って30分程かけて整地してなんとか二人横になれるようにした。傾斜があるので、ずり落ちていくが仕方が無い。タープと自立式ツェルトなので、ビバーク体制としては完璧だ。

我々の設営が終わりHさんPを見るとツエルト一枚だ。雨が降っているので浸透してくるだろうと思いモコモコさんが担いできた小タープをHさんPのツエルトに張りに行った。早くに設営を済ませて居たので居心地がいいのだろうかと思ったが、横にはなれないとのこと。
ツエルトの上にタープを張るといたく感謝されてしまったが、本来ならば小屋で宴会をしてヌクヌク過ごしているはずだったのに、こんな状況に巻き込んでしまって申し訳なさでいっぱいだ。

モコモコさんの待つ我々のビバーク地に戻り、雪渓の雪を溶かして、濁った水作りを済ませて食事をとる、肉体だけでなく精神的にも疲れているのか、結局二人でアルファ米(赤飯)1ヶとカップ麺(リフィル)を1つ分け合ったのもので足りてしまった。

外は弱いが雨が降っており、常にずり落ちて居心地は最悪だが、2003年朝日連峰の入ソウカ沢の夜中に増水にやられて駆け上がった斜面でずぶぬれのままツエルトかぶって膝を抱えて、寒さで震えながら一晩過ごしたときのことを考えると天国のようだ。何よりもそばで同じ思いをして耐えている仲間がいると思うと心強かった。

頑張って整地したのでなんとか寝られた 今日も巨岩を越えていく
上砂沢(右岸)出合 本谷は左岸から入る沢 上砂沢を分ける分けると落ち着いた渓相になる
巨岩なのは相変わらず 先に滝が見える 左岸を巻いた
西河内沢出合 本谷側には大物を予感させる岸壁が見える
スノーブロックが残っていた ブリッジになっていなくて助かった
大滝前の連瀑帯 巻の途中から連瀑帯を見下ろす
巻のトラバース中から連瀑帯を見る 連瀑帯を越えたらしい
ヌメっているのでお助け紐を出した滝を登ると ドーンと大滝60m
修行 冷たい 落石の酷い泥の詰まったガリー状のルンゼから巻に入る
ここに上がる一登りが悪かった 落石に注意してルンゼを詰め上がる
滝見場から見た大滝 そびえ立つ岸壁
岩尾根を登るのを避けて岩の基部をルンゼまでトラバース 尾根に乗れるようになるまでガレガレのルンゼを詰めていく
尾根を乗り越すとすぐに沢床が見えるようになった 落ち口にピタリと出た
大滝を越えると一気に穏やかになる 小屋跡
ここまでは合っていた 大聖寺平目指して藪をこぐ(今でもルートが合っているか全く不明)
晴れていれば問題なかったはずが完全にルートを外した 懸命に整地して無理矢理張った


7月24日(ガスのち晴れ)
コースタイム;BP5:05〜登山道5:25〜小赤石岳6:05〜赤石小屋9:01/9:33〜椹島13:43

当初の計画では、百間洞小屋に泊まり名物のトンカツにありつく予定だったが、お腹いっぱいだ。今日中に椹島に向けて下山して、赤石小屋か椹島に泊まって帰ることにした。
HさんPと5:00出発の約束をしていたので、遅れないように仕度の遅いモコモコさんの尻をたたきながら準備をしてなんとか間に合った。

HさんPも準備を済ませて我々のことを待っていてくれた。昨晩は全く寝られなかったとのこと。無事な顔を見られて安堵するとともに申し訳なさで一杯だ。
昨日の続きでガラガラの斜面を登っていく。モコモコさんが遅れがち。
足下が兎に角不安定で崩れていくので、できるだけ草やハイマツが生えているところを選んで、登山道に近くなるであろう右寄りに登って行く。
昨晩ビバーク中に地形図を見て、1時間以上登る覚悟でいたがやはりガスで何も見えず目標が分からないのは精神的に辛い。

皆黙々と登って行くと、ひょいと登山道に出た。あまりのうれしさに「出たよー」と皆に大声で知らせる。
続いてさすがクライマーHさん身軽に脱出、次にHさんをして登攀が上手と言わしめるIさんも無事脱出。最後にモコモコ係数を大きく掛けたモコモコさんがゼーハー言いながら到着。
出たところは、モコモコさんやHさんの予想通り小赤石岳の肩へと登る傾斜のあるところで、昨日頑張ったとしてもその先まともに泊まれるところも水場もないところで、雨交じりの強風吹き付ける中の行動はとても無理だったろう。下手したら遭難していたかもしれない。昨日の判断は本当にギリギリの所で正しかったのだと思う。巻き込んでしまったHさんPには本当に申しわけなかったが、的確な判断を下してくださり、長い不快な夜もそばに同じように頑張っている仲間が居ると言うことで精神的にもとても助けられた。感謝あるのみだ。

小赤石岳までは一登り。
生まれて初めて標高3000m近くを登るモコモコさんは「なんだか息を吸っても吸ったって気がしないよ」と騒いでいる。
揃って小赤石岳に着いた所で「生まれて初めての3000m越だ」と喜ぶモコモコさんは、HさんPにお祝いの言葉をもらって嬉しそうだ。
椹島と赤石岳との分岐に着いて、昨晩は「赤石岳1本か?」とせめて赤石岳には登っておこうと思っていたが、ほとんど雨のような濃いガスと風に瞬時にやる気をなくして早く下山という気持ちになっていたので、何も未練もなく椹島へと向かう。

標高差1900mの試練の始まり・・・。

水場の直前のお花畑が見事だった。晴れていればさらに素晴らしかったろう。
水場は冷たい美味しい水が豊富に流れていた。昨夜の泥水とは雲泥の差だ。
先を見ると砲台型休憩所とその向こうに富士山の姿がくっきりと見える。このあたりまではまだ皆元気。

標高が下がり暑くなってきた頃に富士見台に到着。すると入山してからこれまで一切見えなかった稜線のガスがぱーっと晴れてきた。
まるで昨晩の夜頑張って耐えたことへのご褒美のようだ。
赤石小屋まで途中ホシガラスさんお鳴き声を聞きながら樹林帯の中一くだり。
小屋はとてもきれいで、外にはテーブルベンチがあるのでゆっくり休憩させてもらった。

後は椹島まで3時間半とのこと。この時点ではHさんPはまだその日中に帰宅できる時刻(最終バスの14:00)までに椹島に下りられると踏んでいたようだ。対してモコモコさんは、沢靴で後半はフエルトが乾いて滑るし私の足では4時間かかるなと読んでいた。


外反母趾のHさんは、そのための専用の手当用品があるらしいのだが今回持参していないため45分ごとの休憩が必要。下りが苦手と話すIさんはまだ元気。

林道跡を横切ると、それぞれの地獄の始まりだった。
標高2000mを切ったことでむっとする暑さが加わり、フエルト靴は益々滑る。踏ん張りながら行くので、とうとうモコモコさんは足にまめが出来、山人は靴が乾いてきたので足指が締め付けられてきた。二人ともそのため踏ん張りがきかなくなり交代でツルッ!ドテ!と音を立てて滑って転ぶのでそのたびに体力を消耗する。

標高差あと500mといったところでたまらず休憩を入れる。すると、下から息を切らしながらもものすごい勢いで登ってくる人が見えた。赤石小屋のスタッフの方で歩荷為ているところだった。荷を見るとなんと箱詰めの桃2箱も担いでいた。桃はただでさえ重いのに2箱、あの小屋まで担ぎ上げるのか。お疲れ様ですと思うと同時に、2000m越の小屋で桃があるなんてすごいなと思った。

最後の下りで、一番元気だったIさんもとうとうやられたらしい。我々は椹島に下りるのは14:00過ぎともとより予測しており、今晩は椹島泊まりと決めていたが、HさんPも椹島に着くのは14:00過ぎになると予測を立て直して、ゆっくり下りることにしたらしい。
そうと決まればお互い急ぐ旅でもないので、マイペースでゆっくり下りることにした。

相変わらずツルッ!ドテと音を立てながら下りていくとようやく林道が見えた。
林道には単独の女性が佇んでいた。
お話を伺うと、仲間と登りに来たが足を引っ張ってしまいそうなので引き返してきたとのことだった。

椹島に着くと、最終バスを待つ人が見えた。
掃除をしていたスタッフの方にお疲れ様とねぎらいの言葉を頂き、山頂の天気の話しになった。スタッフの方によると、昨晩赤石岳は風速30m近くの風がふいたとのこと。それをきいて、やはりあの場でビバークしたことは正しかったと改めて思った。
お話を聞きながらレストハウスへ向かうと、「生ビール」の文字が目に飛び込んできた。スタッフの方によるとレストハウスは14:00までらしい。
あわてて装備をはずしてサンダルに履きかえて生ビールとポテトチップスを購入した。
レストハウスは閉めてしまうので、外のテラスで飲んで空いたグラスは窓の所に置いておいてと言われる。こんなギリギリの時間にありつけるなんて嬉しい。しかもゆっくり飲んでいいなんて、なんと親切なところだ。

生ビールとポテトチップスを味わっているとHさんPも無事下山。
本当は椹島に着いたら真っ先に「お疲れ様ありがとう」の握手をするつもりだったのに、ビールとポテトチップスに心が全て行ってしまいすっかり忘れてしまった。

落ち着いたところで、宿泊の手続きに行く。
HさんPはロッジに食事付で泊まるとのこと。我々は食料が余っているので自炊で素泊まりでもお風呂には入れると言うことなので登山小屋にした。
登山小屋に向かうと、中は薄暗く噂には聞いていたが格差すさまじく、なんだか後悔した。
荷ほどきをして濡れたマットを外に干したりしていると、最終のバスが着いたのか、次々と人が入ってきてそこそこ小屋は埋まった。

レストハウスは16:00から再開することが分かったので、お腹が異常に空いてたまらなくなりレストハウスで食事(カレー)を食べた。食事中にメニューが夜用?になって唐揚げなどのつまみもあるらしいことが分かり風呂上がりにまた来ることにした。

レストハウスから小屋に戻ると、なんと小屋には電気が付いていた。明りが付くと登山小屋もさほど悪くない感じがする。
食事付の人は17:00から夕食なので、モコモコさんがその時間を狙っていけばお風呂も空いていているだろうと予測し、17:00前にお風呂へ入りに行く。モコモコさんの読み通りお風呂は貸し切りで入ることが出来た。
椹島はほぼ下界と一緒で、シャンプー石けんシャワーが備え付けられた、ちゃんとしたお風呂だった。さすがにドライヤーはないが、夏なので問題ない。

ある程度髪の毛が乾くまで受け付け棟で休んでいると、偶然にもHさんIさんも食事を終えてやって来た。しばし、ロッジの夕食のことや山の反省話しをして過ごす。ちなみに食事は会席料理のような感じでなかなか素晴らしかったとのこと。
我々は、風呂上がりの一杯をしにレストハウス(ラストオーダー18:30)へと向かう。

レストハウスでは、唐揚げと枝豆をつまみにハイボールモコモコさんは果実酒を味わう。
さらに本当の食事のために缶ビールと缶チューハイを買い込んで登山小屋に戻る。山の上のおしゃれな居酒屋を満喫。
周りは我々以外、明日から入山という方ばかりなので既に休んでいる人もいる。我々もお腹がいっぱいになったので、早々に切り上げた。


ガスガスの中出発 30分ほどで登山道に出た
小赤石岳 見事なお花畑
赤石岳の水場 冷たくておいしい 小鳥さん
おっ晴れてきた 富士見平に着いたら一気に晴れた
赤石小屋のテラスでのんびり休憩 食欲そそるメニュー


7月25日(くもり一時晴れ)

登山小屋は翌日入山を控えた方ばかりで静かだったのと、平らで乾いた寝床で寝心地はよかったのだが、蚊の猛攻に遭って入山して一番寝られなかった夜となった。
やはり下山したら奮発してロッジに泊まったほうがよかったかな?

今日は帰宅するだけだが、静岡駅まで車で送ってくださるというありがたい申し出に甘えてHさんPに本日もお世話になるので、HさんIさんとともに朝一番(椹島発6:15)の送迎バスに乗り込んだ。
最初に駐車場まで行く我々が乗り込み、聖沢登山口で下りる人が続いて乗って出発。
尚、色々事情があるらしく今年から椹島から向かって聖沢登山口で下りるのはかまわないが、駐車場から乗った場合は聖沢登山口で下車できなくなってしまったらしい。東海フォレストさんは色々頑張ってくれているが、おそらく頭の硬い役人などがうるさいのだろう。
なにはともあれ、\3000で往復送迎してくれ、さらにその3000円は宿泊料金として使えてどの小屋も皆きれいとなれば、大変ありがたく安い物だと思う。

無事駐車場にたどり着き、Hさんに静岡駅まで送ってもらった。静岡駅で昨日するはずだった握手をがっちり交わしてお別れした。
Hさんのお陰で、本来ならば乗るはずだった「しずてつジャストライン」(前日19:00までに要予約であるが、椹島に公衆電話があるので予約可能)がやっと駐車場を出発する頃には、なんと東京駅に着いてしまった。

今回詰めははっきりしていると思い込んで読図をサボったこと、少ないながらも山行記録があるのに研究不足で、熱心に調べたことと言えば小屋の食事(トンカツなど)のことばかり、反省する点が大いにある山行だった。そんな中でのHさんIさんとの出会いにはとても救われた。
HさんIさんには本当にお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。




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