山域 |
月山・朝日連峰 |
コース |
肘折温泉~念仏ヶ原~月山~湯殿山~大越~鍋森~赤見堂岳~紫ナデ~天狗角取山~二ツ石尾根~狐穴小屋~大朝日岳~葉山~白兎登山口 |
中編 |
5月1日(晴れ)
コースタイム;幕営地②5:20~湯殿山6:40~大岫峠8:10~大越9:00~1162.2mP 12:41~鍋森14:10~砂吹立(1272.0mP)15:20~赤見堂手前鞍部(幕営地③)17:10
水の便を最優先したので少々風がテントに当たったが、静かでよく寝られた。
今日の朝も暖かく、また暑い一日になりそうだ。
[幕営地③から湯殿山]
雪は比較的軟らかいが、重荷だとアイゼンを着けた方が楽なのでアイゼンを履いて出発。
最初は、屋根だけ出ている施薬避難小屋の建つ台地方向へ石跳川沿に緩やかに下って行く。石跳川にはスキーシュプールが残っていた。
下るシュプールとは逆にこれから登る目前の湯殿山を見ると、尾根は完全に薮がでており、南東斜面の残雪を繋いで登ることにした。
取りつきは大きく迂回しなければいけないように見えたが、実際に近付くとさほどのことはなく簡単に斜面に取りつくことができた。
雪がなくなると完全薮となってしまうため、最後のチャンスを狙っているのか、これから登る斜面にはかなりのトレースが残っていた。
遠目には急な斜面のトラバース登りになりそうで大変そうに見えたが、実際登ってみると、雪の状態がいいので結構登りやすい。早速暑くなって一枚脱いだ。
既に雪が消え草つきが出ていたり亀裂が出来ている所もあったが、登るのには全く問題がなかった。
湯殿山は2つのピークを持っており、最初の北側のピーク(ここでは北峰ということにする)直下はさすがに急だった。それでもピッケルを出すほどでもなく、出発時そのままのアイゼンとストックで快適に登ることができた。
北峰と本峰のピーク同士をつないでいる頂稜部はさすがに雪堤状に雪が残っており、歩きやすい。
地形図で見ると、ほとんど標高差がなく楽々本峰に行けそうに見えるが、実際歩いてみるとたった2~30mの標高差の登り下りが結構つらかった。
この登りで足跡発見。我々より早くに登っていた人がいたのかなと一瞬思ったが、よく見ると、熊さんの足跡だった。熊さんは人間よりも雪堤の端を歩いており、下りは足を滑らせながら効率よく進んでいる感じだ。
熊さんの足跡を観察しながらだったので、最後の登りは比較的楽に登ることができた。
[湯殿山から大岫峠]
トレースもここまでだった。時計を見ると出発してから既に1時間以上経過してしていた。やはり昨日中に湯殿山を越えるのは無理だった。
さてと、下りに使う尾根を見ると、期待してはいなかったが尾根の雪はきれいに消えていた。
薮漕ぎ覚悟だったが、幸い尾根南東斜面にはまだしっかりと雪が着いており、雪質も悪くないので斜面をトラバース下りしていけそうだ。
標高1300m辺りまでは、片斜面であるが傾斜がきつくないので快適に下りることができた。この辺りはスキーで滑るのも楽しそうだ。しかし、上から見る限り、降りた後は平坦に見え、漕がないと進まないように感じられた。実際はどうなのだろうか。
そこを過ぎると尾根が痩せてきて尾根の片斜面の傾斜も急になってきた。
その斜面も痩せ尾根なので、雪が落ちてたり雪消えが早かったりで、雪をつないでいくにはかなり下まで急な斜面を降りて迂回しなければならないところも出てきた。
よく見ると数m薮を漕げば先にまた雪が着いているの見えるので、何ヵ所がそういった雪が切れているところは薮を漕いだ。その中で、後ろを歩いてくるモコモコさんから「うさぎー!!!」と声が上がった。慌てて周りを探してみるが、薮に突入してしまったので見ることはできなかった。残念。
はっきりと目撃したモコモコさんから様子を聞いたところ、南東斜面を薮から出て駆け下り、尾根の薮へとはいって行ったそうだ。既に夏毛に替わっていて、手足首下だけ白かったそうだ。
モコモコさんだけの目撃だが、兎さんを見るとその山行はなんだかいい感じになる(いい感じになって終わる)というジンクスが山モコにあるので、朝からいいものを見たと思った。
そのすぐ後には、これもモコモコさんの目撃だがすぐ近くを猛禽類が飛んで行ったそうだ。
月山は人が多く入るが、信仰の山であるためあまり開発が入らないお陰か動物さんが多く生息していると実感した。
やがて台地が視界に入るようになれば、急な下降も終わりだ。
台地直前の緩やかになったところで、一度休憩を入れた。
ここから大越まで分かりづらいのでGPSの電源を入れようと思ったからだ。
実際地形図を見ても、ぱっと見どこを行けばいいのかはっきりせず、大越から先も地形が複雑で尾根がはっきりせずうねっているので、これでもかというほど慎重にポイントを打って時間を掛けてルートを作成してきたとモコモコさんも自身たっぷりだった。
どれどれと見てみるとなんだかおかしい。
ルートが出ない。
ガーン!!!どうやらメモリの容量が足りずに入らなかったらしい。
あまりにも長い行程なので、いくつかに区切ってルートを作成し、これから行く一番ナビが必要になると思われるルートは最後にアップロードしたために漏れてしまったようだ。
無いものは仕方がない。現在地のポイントは出るので、地形図とにらめっこしながら行くことになった。
昭文社の登山地図によると登山道があるらしき大岫峠にはテープ印があった。
[大岫峠から大越]
二人で考えているコース取りが微妙に違うため、お互いに方向が違って見えてしまう。そのたびに地形図と照らし合わせて目指す方向を確かめながらで歩くことに集中できなくなった。
そうすると、余計なことに神経が周るため、これまで感じなかった肩の痛みが出てきた。
最初にコンパスをきちんと合わせていなかったことが原因だが、いかにGPSに頼っていたか大いに反省することになった。
そんなゴタゴタがあったが、なんとか地形図にのっている送電線が通る場所まで来ることができた。GPSで現在地を確認すると大越へ降りる尾根の上にきちんと乗っていることがわかり一安心。
後日GPSのログを見てみると、微妙な曲がり具合の尾根の上を忠実に歩いていたことがわかった。GPSがあると適当に方向を修正して直線的に歩くことが多いので、それはそれでいい思い出になった。
たったこれだけの距離に30分もかけてしまった。やれやれ。
大越が見えるところまで順調に降りたが、一度感じが肩の痛みは取れずまたもや休憩。暑さも加わり20分も休んでしまった。休みすぎだ。
一段降りた大越は静かでとてもいいところで、時間と日程さえ許せば幕営したいほど、何よりも昨日ここまでこられれば最高の場所だった。
[大越から1045.6mP]
いよいよここから次のステージへと移り、朝日連峰の領分へと入って行く。
大越からは目前のピークに直接登りたいが、沢が入っているので少し東へ回り込んで登ることになる。
沢の源頭となる鞍部には鳥獣保護区の看板が打ち付けてあった。これまでで一番深い所にいる気でいたので意外な人工物出現だ。
さらに驚いた人工物は、登っているときにこれから進むピークの北側斜面に反射板が建っていたことだ。
後でゆっくり考えてみれば、月山道路ができる前は大越を通る六十里越街道が幹線道路だったわけだから、道路から近いこの場所に人工物があっても当たり前といえば当たり前なのだな。
標高が下がったこともあるが、連日の暑さでバカ虫(ブヨのことを我々はこう呼んでいます)が発生してうるさくまとわりついているのがうっとうしい。しかも、二人とも既に数か所かみつかれていた。虫はいても、この時期にかみついてくるのがいるとは思わなかった。
大越から最初のピークとなる地点では、なにかのキャンプ跡なのかマットが敷いてあり、その周りに蕗のとうが出ていたので、摘みごろのものを数個頂いた。
大越からここまでは、大きな木の生えた樹林帯だったが、一気に日陰のない雪面になったので暑さが一気に増した。このピークと三角点のある1045.6mPとの間のピョコで一度荷物をおろした。
モコモコさんから、地形図を直ぐ出せる様にした状態で歩きたいとの要望があったからだ。吾妻のようななだらかな地形が続くので片手に持って行くことは可能だが、不便すぎる。そこで、小さなスタッフバックに地形図を入れて、スタッフバックの紐とザックをカラビナで繋いで留めて、スタッフバック自体はウエストベルトで挟んで固定した。どうやら具合がいいらしい。ちょうどGPSの電池が切れたので交換している間にモコモコさんは先行していった。
比較的はっきりした尾根筋だ。
1045.6mPは薮が出ており、三角点は雪と薮の中なのか見つからず。
ここから尾根は直角に曲がって西へと向かっている。モコモコさんはもう少し先へ進んでいるようで、北側の雪面についた足跡は薮に沿うように西へ向かっていた。
[1045.6mPから1116mP]
足跡を追っていくと、薮の隙間からモコモコさんが迎えに出てきた。
薮の薄い所から南側の斜面へ移っていた。
この辺りの地形は複雑で、尾根の右から左から次々と下りて行きやすそうな沢が入ってくる。天気が良く先までよく見えるので、先行して地形図を確認してくれていたモコモコさん先導で順調に進めた。
西錠沢源頭部の辺りは特に分かりにくかった。
最初は、一度南へ下ってなぜかそこだけ薮の出た平坦地を通過し、右に左に沢の源頭部をよけながら進む。このあたりガスだったら、GPSのナビがあっても不安になりそうだ。
先に進むとピンクテープがこれでもかというほど多くの木に付けられていた。
尾根が沢の源頭を避けながら右に左にぐねぐね曲がり、ピークはなだらかで分かりにくい。神経質なほど地形図と周りを照合しながら先導するモコモコさんを、GPSで現在地を確認してサポートしながら進む。
尾根の北に外れて聳える1071mPを過ぎると、なだらかなのは変わらないが、若干尾根がはっきりするようになった。後ろを振り返ると、残雪のお陰でなんとか辿ってきた尾根筋がわかる。
ここで大越~鍋森間の距離で言うとちょうど1/3だ。これから登り下りが多くなり、標高も上げなければならない。直線距離でも結構遠く感じるが、この辺りは尾根が大きくうねっているので、鍋森が一層遠く見えた。もしかして今日は鍋森で終わってしまうのではないかと不安が頭をよぎった。
1116mPの前にふたこぶのピークが一つある。雪の状態がよく斜面の傾斜も緩いので、ピークの直下を巻き気味に通過した。この巻気味に通過したピークからは、今まで西寄りだった進行方向が東寄りに変わり、目の前のピークを登ると1116mPだった。
[1116mPから鍋森]
1116mPからはこれまでに比べて尾根がはっきりしてくる。
白土谷沢の源頭にあたるので沢がたくさん入っているが、今までのように地形図を見る回数がぐんと減って、進行方向が分かるようになった。
その分ポコポコ出てくる小さなピークがはっきり起立するようになってきた。幸いピークは切り立ったものではなく、なだらかなので適当に安定して着いている雪の斜面を使っていくつかは巻いて通過した。
天気がいいので助かる。視界がなかったら、一つ一つ丁寧に登らないと行けなかったと思うと連日の晴天による暑さにも感謝の念が湧くというものだ。
この辺りは、今日一番日差しが強く暑かったが、楽しんで歩けたところだった。
再びペッたりとした感じの登りにかかるようになれば、1162.6mP手前のピークが近づいたということだ。
大越-鍋森間の2/3をこなしたことになる1162.6mPは間もなくだ。
今までは、どちらかというと東や南側の斜面を歩いてきたのでほぼ雪原という感じだったが、このピークは西側を向いている斜面を通るので山頂直下は樹林の中の登りとなって枝を避けたりして通過した。
このピークから鍋森までは、再度進行方向が変わり、南西へ向かうようになる。
稜線の向きが変わって、西側の小沢側は緩やかな斜面であるが東側のシノマタ沢は切れ落ちており立派な雪堤ができている。
ここまできてやっとはっきりとした尾根の形状をとるようになった。
地形図を見る回数も更に減らしても全く問題なくなったので、サクサク進める様になった。1162.6mピークへはすぐに着いた。
大越からはあまりにも遠く見えた鍋森が、今日中に確実に越えられる距離までになって少し気持ちが楽になった。
先が見える様になったので、荷物をおろして休憩がてら稜線を辿って先を見てみる。
すぐ目の前にピークが見えるが、これは鍋森ではなくその奥が鍋森だ。鍋森から稜線を辿ると、目の前のピークにさえぎられて稜線が見えない。赤見堂岳がはっきり見えているものの、どこをどうやって繋げて行くのかはさっぱりわからなかった。
忠実に雪堤を辿っていく。1162.2mPと1195mP手前のピークとの鞍部で薮が出ており、雪堤には亀裂が入っていたので、モコモコさんは薮を行き山人は亀裂を跨いで通過した。亀裂の部分の通過は全く問題なし。
1195mPの手前にあるピークは北側斜面を軽く巻いて、1195mとの鞍部に出た。1195mPへは雪の壁状になっていたが、連日の暑さにより壁の傾斜が緩んで登りやすい雪質になっていたので難なく登ることができた。
そのままピークまで登るのではなく、傾斜が緩い所まで届いた時点でトラバースして山頂を巻いた。できるだけ距離を稼ぎたいため、大越からこれまでのように、なるべく直線的に進むようにした。
1195mPまでくると、鍋森から先の稜線の繋がりがわかるようになった。
こちらから見る限り、1272.4mPの砂吹立までは全て雪がつながっていることがわかった。雪がつながっていれば砂吹立を今日中に通過できることは確実そうだ。
稜線の向きや標高もあるのだろうが、午後になって風が吹いてきたので涼しくなってきたのも味方してくれ、鍋森の登りの取りつきまですいすい進んだ。
朝はあれだけ遠く見えた鍋森も目前に迫り、遅くても歩いていけば確実に辿りつけることを実感。
山頂は薮が出て雪堤ではなく雪の斜面だ。山頂は通らずに下にある樹林帯をトラバースして抜ける作戦で行くことを、事前にモコモコさんと打ち合わせした。
打ち合わせ通り、先頭のモコモコさんはある程度登ってから樹林帯へのトラバースに入った。
最初は沢の源頭を登り気味に回り込んで樹林帯へ入った。地形図から見ても分かるように樹林帯部分は池マークまである緩やかな所で、樹林をよけながらでも楽に歩くことができた。
樹林を抜けてからは、鍋森の肩のようになっているところを目指してさらにトラバースして稜線に戻った。
後ろを振り返ると、きっちり登ってきても大したことがないように見えたが、実際登ると結構後で効いてきそうだ。
[鍋森から砂吹立]
鍋森を過ぎると、稜線が南北にほぼ直線に続くようになったせいか、大越からずっとなだらかな稜線歩きだったのが一変してはっきりと尾根の形をとるようになった。
鍋森まで折角登ったのを「もったいないー」と言いながら一下り。
地形図には名前が載っていないが、標高1272.4mの砂吹立までは大きな登り下りがなさそうなことにほっとする。と同時に先に続く稜線が見える様になり、赤見堂岳手前に結構大変そうな登り下りがありそうで愕然とする。今日中に赤見堂岳を越えておくのがりそうなのだが。
鍋森手前から吹きだした風で涼しくなり、多少の登り下りはあるもののペース良く砂吹立前の鞍部まで進めた。
鞍部から砂吹立を見ると、これから進む方向の尾根が見えるが、肝心の砂吹立から入る尾根は手前にもう一つある尾根の陰になってしまってよく見えない。また、山頂は薮がでていてこれも我々が進む尾根が見えない原因の一つになっている。
ここから見る限り、山頂の西側(進行方向左)の斜面に雪が着いており、そのまま西側斜面を南へ行って山頂を巻くことができそうな感じだった。
地形図を見ると、山頂西側は緩いが沢の源頭状になっており我々の乗りたい尾根まで結構距離がある。下手に入って薮にはまるといけないので、ここはおとなしく登ってしまうことにした。
たった標高差70mしかなくても、これまでの行動で疲労がたまってきているのでなかなか骨の折れる登りだった。それでも登り易い雪質でよかった。
実際に登ってみて、やはり西側を巻かずに東側の斜面を山頂まで登ってきて正解だったようだ。山頂は濃い薮で、もし巻いていたら通ったであろう斜面も薮が出ていた。
[砂吹立から赤見堂岳手前幕営地④]
判断が正しかったことに気を良くして、地形図を確認せずに下りに入ってしまった。
尾根がはっきりしていたので疑うこともなかったが、どんどん尾根が痩せてきて雪堤もかなり下まで落ちている。
モコモコさんには待機してもらい、代表して雪堤を辿って様子を見てみると尾根からどんどん離れている。これはルートミスだ。
モコモコさんの所へ戻り、雪堤沿いに行ってはいけないことを報告する。
ここで初めて地形図とGPSを確認したところ、地形図では山頂からはっきりした真南に向いている尾根に乗るのは間違いで、本来乗るべき尾根は南西を向いていて山頂からは尾根の形をとらず、ある程度斜面を降りた辺りから尾根の形状をとっていた。薮で本来入る尾根が隠れていたので、間違いに気がつかなかった。
幸い、間違って歩いた距離もわずかですんで助かった。
少し登り返して正解の尾根へと薮の薄い所を通り抜けると、斜面の下に連なっている稜線が見えた。尾根の右(西側)はやはり薮だったので、山頂までわざわざ登って正解だったのはかわりなかった。
登った分きっちりと下るので、ここでも「もったいないなー」を連発して快適に下った。
この砂吹立を越えると、やっと赤見堂岳への稜線の繋がりが分かるようになった。
地形図を見てわかってはいたが、赤見堂岳へは直線ではなく、一度西側へ回り込んで二つのこぶがあるピークを越えないといけないように続いていることがはっきりと分かる。
肝心の赤見堂岳は山頂からかなり下まで薮が出ている模様。
今日中に赤見堂岳を越えてその先で幕営という理想はかなうのか?
砂吹立すぐ先の1212mPは鞍部手前から東側を巻いてピーク先の鞍部に乗った。
傾斜な急な斜面を登ると細長い頂稜を持つピークとなった。ピークから少し降りたところの痩せ尾根で初めて雪が切れた部分があり、数m薮に入ってやり過ごした。わずかな距離で済んでよかった
鞍部まで来ると、赤見堂岳手前のピークがデーンと目の前に立ちふさがった。赤見堂岳の西側はなかなか見ることのできない貴重な景色だ。標高差170mほどの登りだが、さすがに疲れがたまってきたのかモコモコさんのペースががくんと落ちた。
この時点ですでに16:00過ぎ。今日も残業決定だ。
赤見堂岳は越えるのは無理そうだ。また、下手に取りつくと、泊まれる場所がなくなり、真っ暗な中の薮漕ぎか薮の中での膝を抱えてのビバークになりそうだ。
残念だが、赤見堂越は明日に持ち越しだ。それよりも目の前のピークを越えられるかが問題になってきた。
先頭を交代して、モコモコさんには後ろから着いてきてもらうことにした。
このピークは、最初に小さなピョコが1つ、その次にはっきりとしたピークが二つある2こぶラクダのような形をしていた。遠目でもはっきりと2つのこぶが見えただけあって、こぶを越えるのにモコモコさんにはヒーヒー言っていた。
なんとかピークまで登りきった。あとは幕営地を探すだけだ。
17:00頃無線をオープンにしていたら竜門小屋、狐穴小屋の両管理人さんの声が聞こえてきた。本日より入山したようだ。二人の声を聞いたらようやく朝日連峰に踏み込んだ実感が湧いてきた。
ピークはいい幕営場所になりそうだったが、明日の朝雪が堅いと鞍部までの下りが急で苦労しそうなので鞍部までは下りておくことにした。
下りた鞍部はやはり風が吹き抜けるが、少し位置をずらせばさほど気ならずに過ごせそうだ。
早速荷物をおろして設営にかかる。
いままでで一番傾斜のあるところでの設営だったので多少時間が掛ったが、なんとかまだ太陽が目線よりも上にある内にテントにもぐりこんで水作りに入ることができた。今日も乾燥して天気がよく適度に風が吹いているので、靴下等を風に当てて乾かすことにした。2日目から既に靴下は二人とも絞れる状態だ。気温が高く水分が多いのでどうしても靴に浸み込んでしまう。
テント内で裸足で足の裏を乾かすのが楽しみの一つになっている。靴下は2日目夜から外に干しながら寝ることにしている。
入山3日目にして初めて水作りをした。水作りを済ませて夕食の準備をしているとあっという間に時間が過ぎてしまい、早くも日没だ。
今晩も天気が良く、太陽が沈むのを見ることができた。
前回(2012年5月)も赤見堂岳まで来なかったが、天狗小屋まで抜けられた。今回もきっと天狗小屋までなんとか行けるだろうと、一度歩いたことのあるルートなのでお気楽モードで明日に備えた。
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最初は少し下る |
施薬避難小屋の屋根がでていた |
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どこから取りつくか |
南東斜面を登ることにした |
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昨晩泊まったところや降りてきた所が分かる |
思ったよりも登りやすい |
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尾根は薮が出ている |
早速暑くなってきた |
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湯殿山北峰に着いた |
石跳川 |
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湯殿山本峰 |
尾根は薮だった |
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スキーで下りるのも楽しそうな所 |
しかし下りた後が大変そう |
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このあたりまでは快適な下降 |
急な斜面をトラバース下り |
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なだらかでどう繋がっているのか不明 |
赤見堂岳 ・・・・・遠い |
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雪の切れた所は薮を進む |
ここまで降りてくればなだらかになる |
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大岫峠 |
送電線の通る台地まで一下り |
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大越は静かでいい所だ |
六十里街道 大越 |
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沢に阻まれ迂回が必要 |
謎の反射板 |
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摘みごろの蕗のとうを頂いた |
暑くて汗ダラダラ |
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正面の薮は1045.2mP ここで直角に右に曲がる |
直線に見えるが実際は右に左に曲がりながら |
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なぜかこういった地形が多い |
テープ印があった |
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後ろを見ると、尾根筋が分かる |
鍋森は遠い |
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ここでまた直角に曲がる |
沢が入り組んで入ってくる |
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1162.2mPから尾根がはっきりしてきた |
1195mP前の鞍部から鍋森方向 |
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亀裂に注意しながら |
鍋森まであともう少し |
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鍋森の取りつきから後ろを見る |
鍋森は樹林の所を巻いた |
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鍋森を巻き終わったところ |
砂吹立(左)と赤見堂岳(中央奥) |
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砂吹立 |
砂吹立は登って東側へ回り込んだ |
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砂吹立への登りから鍋森を見る |
左に同じ |
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砂吹立からの下りは方向に注意 |
分かりやすい尾根で助かる |
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珍しく尾根が痩せている |
赤見堂岳への稜線はぐるっと回り込むようについている |
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赤見堂岳今日中に越えられるか |
その前にあのピークを越えなければならない |
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月山が遠くなってきた |
小さなピョコでも登るのがつらくなってきた |
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赤見堂岳は今日中に越えられそうもない |
鞍部付近で幕営 薮で上部は黒々している |
5月2日(晴れ)
コースタイム;幕営地③5:30~赤見堂岳7:10~枯松山10:03~大桧原山12:55~アオ倉15:15~紫ナデ17:00~紫ナデ南標高1300m辺り(幕営地④)17:10
昨晩、突然トイレ(大)に行きたくなり気持ちよさそうに寝ているモコモコさんを起こしてしまった。後で聞いた話では、このときお気持ちよく風呂に浸かっている夢を見ていたのだとか。連日暑くて大汗をかいているので、夢の中で欲求を満たしていたらしい。
そんな騒動があったが、心配だった風もさほどのものでなく、ほとんどテントが風にあおられることなく静かに寝られた。
連日3:00起き5:00に出発するつもりでいたが、疲れが徐々にたまって行くのに合わせて少しずつ寝坊して出発も遅くなっていく。
[幕営地③から赤見堂岳]
今日も5月連休としてはありえないほど暖かい。昨夜干しといた靴下もいい具合に乾いている。雪が軟らかかったが、アイゼンを履いた。
最初に目の前の雪の斜面の登りからだ。
モコモコさん先行で軽く最低鞍部まで下り登りやすい所から適当に登って行く。
前方右の斜面にも雪の付いた所が見られる。
赤見堂岳からは進行方向が直角に右(南)に曲がるので、右斜面に着いた雪部分に行ってからそのまま向こう側へ抜ければ近くて時間短縮になるのではと考えたが、なんだか手ごわそうな薮ではまりそうだ。
砂吹立の薮を思い出して、ここはおとなしく山頂へ素直に登った方がよさそうだ。
さすがに赤見堂岳はこれまでと違って標高が少し高いためか、一部凍った所や雪が固い所があった。まだ体が起きていないため思ったよりも時間が掛ってしまったが、雪が途絶える所まで登り切り、薮に入る前に一度休憩を取った。振り返ると昨日は楽しく歩いた稜線が見渡せる。
それに引き換え目の前の薮はかなり手ごわそうだ。心してかからなければならない。
薮に突入してすぐに長い戦いになると思った。
股のあたりの高さから思い切り枝を広げている木が密集している薮だ。それでもまだ先が透けて見えるのでなんとかなりそうだ。
全身運動でザックが思い切り引っかかったりしながらも結構進んだよなと後ろを振り返ると、ほとんど進んでいない。
このデカイザックが恨めしい。
やがて薮は激しさを増して、これまで笹と単一種類の木といった具合だったのが、シャクナゲやツゲどうだんときにはツガやハイマツが連合してくるようになった。こうなると前後左右上下から枝が絡んできて逃げ場がなくなってしまう。
最悪の薮だ。
周りも一切見えなくなり、上へ上へと向かうしかない。
途中おおきな石楠花が進路をふさいでおり、回り込もうとしても他の枝に邪魔されて身動きが取れない。
空身ならばなんとか通り抜けられそうなので、一度ザックをおろして空身で通り抜けて、後続のモコモコさんとザック2つ荷揚げをした。
問題はザックを背負うときに起きた。足場が不安定で、背負うとすると枝が反発して押し返してくる中、なんとか背負い直した。
いつまでこんなことやっているのだろう。
薮漕ぎの時は結構無心状態になっていることが多いが、今回は枝にひっかかり自力では抜け出せなかったりすること多数で集中力散漫になる。
山頂はまだ遠い。薮の一番濃いところは抜けたような感じになったので、一度東へ方向を変えて赤見堂岳を巻けないか試してみた。やはり雪国の薮はトラバースするには最悪だ。ある程度進んだ所で赤見堂から先の稜線が見えたが、一面の薮だ。これでは延々と薮トラバースになってしまう、上を目指すのが正解のようだ。
ほこりを吸いこんで二人ともせき込みながら、もう一度上を目指して時間を忘れて薮を漕いで行くと空が見える様になった。標高1400m辺りだと思うが、1m×2mほどの小さな小さな残雪が残っていた。薮漕ぎ中のまさにオアシス。この残雪には助けられた。時計を見るとすでに6:50。距離たったの350m、標高差たったの150m進むのに1時間20分もかかってしまった。
これまでアイゼンを付けていたが、薮に引っかかり大変だったので、アイゼンを外した。突入前に外すべきだった。お陰でスパッツのバンド片方千切れた。
幸いここからは尾根の形状をとるようになり、植生は変わらないが、薮の高さもから頭が出る程度まで低くなったのと、尾根なので髪の毛の分け目のように薮に分け目が出る様になったので、これまでとは段違いの速さで進める。
山頂近くなるとこれから行く尾根の東斜面も見える様になるが、かなり薮が出ていてショックを受けた。
前回は探すことにの出来なかった三角点は、薮の分け目を辿って行くと自然に辿りついた。
三角点の他に青いプレートがあり、消えかかっているがまだ文字が読めた。なんでも慶応大学の学生さんがヨウザ峰経由で稜線に上がりここまで縦走してきたときのものらしい。正確には忘れたが、「少しずつでも歩けば進むんだ」といった内容のことが書かれていた。ヤブがひどかったりで苦労したんだろうなと思われると同時に、我々の行く先を暗示しているかの様でもあった。
[赤見堂岳から枯松山]
赤見堂岳山頂で既に7:00過ぎ。時間もそうだが、既に二山くらい越してしまった気分だ。モコモコさんは、薮の埃でくしゃみを連発して鼻水がでるよーと騒いでいた。
予定では6:30には到着するつもりだったので寝坊したことを差し引いても大幅な遅れだ。天狗小屋へ行くにはぐずぐずはしていられない。
山頂周辺は薮なので、前方に見える残雪を狙って最初に尾根を一下りした。
薮でも下りは早い。残雪が見える所まであっという間に着いた。
残雪でアイゼンを付けて、地形図にある池マークのあるピークとの鞍部へ下降すると、鞍部で薮が斜面に大きく張り出している。
薮を大きく巻いた方がいいと思ったが、モコモコさん偵察の結果尾根に残る残雪を繋いで行けるとのこと。
これは嬉しい誤算だ。巻くとなるとかなり下を回ってこないといけなかったからだ。
見た目ほど薮はひどくないかもしれない。順調に、次のピョコを数個持つピークを巻気味に通過して、横沢源頭部となる1327mPとの鞍部までいいペースで来られた。
1327mPの肩に入り込んでいる沢は既に出ており水が豊富に流れていた。前回は雪に全て埋まっていたのだが。
昨日のうちにここまでこられれば最高だったな。
前回は1327mPには寄らずに巻いて行ったので、今回もそのつもりでいた。ところが、少しの距離のはずだが猛烈な薮に阻まれてしまった。そのまま突破しようとするモコモコさんを制して、空身で偵察してみる。とても進めるものではない。
東側へ回れば雪が着いているはずと、不満顔のモコモコさんを従えて、1327mPをぐるっと回りこんでみた。思った通り、きれいに雪面が広がっていた。最初から素直にこうすればよかった。かれこれ30分は無駄にしてしまった。
東側の斜面は、鍋森だけでなく赤見堂岳からでも全く見えないので雪面が続いているのが分かった時は本当に嬉しかった。
一気に暑くなり、日焼け止め塗りにも精が出るというものだ。
枯松山までは広い雪原歩きで、先ほどのロスを取り戻すかのようにぐいぐい進んで何事も安く枯松山山頂に着いた。
[枯松山から大桧原山]
山頂を回り込むと先が見える様になった。
薮が心配な大桧原山から先の痩せ尾根には遠目には、途切れ途切れながらもなんとか雪が残ってるように見える。問題は大桧原山の薮だ。大桧原山は広い尾根を持っているが、広い斜面の西側は、赤見堂岳付近同様に雪がすっかりなくなって薮天国(地獄)?となっている。東側は切れ落ちて雪も山頂直下で一度完全に切れている。
雪の多かった前回でも多少の薮漕ぎが避けられなかったところだ。今回はどれほどの薮漕ぎになるのか予測が立てられない。
それよりも、次のピーク出る標高1400m(高倉山)を見ると、前回は斜面全体にべっとりと生クリームのように付いていた雪が、大きく割れており、一部は薮が見えている。ここから見えない部分(小さなピークや尾根派生部の南向斜面)はかなり薮が出ていることが予想された。
枯松山からはこれまでと対照的に痩せ尾根となる。ここは雪堤も尾根同様にかなり痩せてしまっているがまだしっかりしているので雪上を歩いて行けた。数ケ所切れているところは、仕方なく尾根の薮に入ってやり過ごさなければならないが、距離はわずかであるのと、雪消え直後の岩が露出している部分を使えた。
見た目よりも雪の切れている場所や消え方が素直で、薮と雪堤の乗り下りは困難なく出来たので、あまり時間を掛けずに高倉山の取りつきまで行けた。
高倉山への登りは比較的傾斜があるが、アイゼンを付けて登るのにちょうどいい雪質でピッケルを出すことなくストックのままで登ることができた。
山頂には、前回はなかった大きな亀裂が入っていた。亀裂の先が繋がっているが見えず、山側の雪と谷側の雪どちらに乗るか迷ったが、谷側の雪を進んだ所先できれいに繋がっていた。
ここまで赤見堂岳から既に6時間近くかかっている。まだ天狗小屋を諦めることは考えていないが、小屋泊まり以外のことを考え始めておいた方がよさそうな雰囲気になってきた。
高倉山から尾根が再び広くなって、雪原歩きになったのもつかの間。すぐに雪が薮の中に消えてしまうかのようにどんどん狭くなってしまう。
それでもなんとかへばり付いている雪の斜面を繋いで行けたのは幸運だった。その幸運も大桧原山手前の鞍部まで。完全に雪が切れてしまった。
選択肢は二つ。
大桧原山東斜面に残る雪を繋いで延々トラバースするか、薮に入り山頂直下にある雪堤を目指すかだ。
斜面をトラバースすれば薮漕ぎなしで、くの時に曲がった大桧原山を巻く形なるので時間短縮になるかもしれない。しかし亀裂がかなり下まで入っており、一部はかなり急傾斜のトラバースを強いられそうだ。
なによりもトラバースの距離が長く負担が大きそうだ。
これらを考えると、薮漕ぎをした方が安全だ。前回でさえ、ここは多少の薮漕ぎは避けられなかった所だ。赤見堂岳の薮漕ぎに比べたらましということで薮を漕いで稜線に忠実に進むことにした。
薮漕ぎ前に雪堤で一休み。
間もなく12:00.今日は昨日入らなかった避難小屋の小屋番さんも上がって勢揃いする日なので、定時交信があるかもしれない。
荷物をおろしたついでに、無線の電源を入れて待っていると交信が始まった。驚いたのが、竜門小屋で水が出ているとのことで、耳を疑った。
今晩の宿泊地になるかもしれない天狗小屋はというと、まだ登っている最中らしい。こちらも聞いてびっくり。管理人さんと一緒に9人ほど登っており、その後にも10人ほど登っているとのことだった。
無線交信は続いているので、無線の電源を入れっぱなしにして我々は薮へ突入することにした。雪堤と稜線の段差が開くようになってきたので、3mほど薮を登って稜線に上る。稜線といっても単なる薮。
最初は傾斜がない比較的楽な薮こぎ。
10分ほど薮を漕ぐと、傾斜がでてくるので一気に周りが見えなくなった。赤見堂ほどではないが、標高1300m~1400m前後の朝日の薮漕ぎは強烈で、薮漕ぎ開始20分ほどで嫌気がさしてきた。
雪の切れた距離はあまりなかったはずなので、稜線の東側へ寄って様子を見てみると、雪に乗れるのはまだ先だ。がっかりだが、雪が無いものは仕方がない、薮漕ぎを続けて行く。
薮漕ぎを開始して30分ほどたったところで、もう一度雪に乗れないか探りに行ってみると、少し段差があるが雪に乗れるところまで来ていた。
薮を使って3mほど下降して、あと3mほどで雪面だというところで、急に泥つき草つきになったので少し足を滑らせてしまった。薮で全く見えなかったので焦った。
後続のモコモコさんには、注意を促しながらゆっくりと下りてもらった。
下りた雪堤上で先ほどの聞いた無線について、天狗小屋は今晩混雑しそうだ。もし遅くなったら小屋は諦めた方がいいかもしれないといったことをモコモコさんと話した。モコモコさんからは、「紫ナデまでは行きたい。紫ナデまで行っておけば、明日も天気がいいから確実に狐穴小屋まで行ける。計画でも明日5/3は、狐穴小屋までの行動で、遅れを取り戻したり、順調に進んでいた場合は休養日となるように調整日にしてある」とのこと。また、「紫ナデ付近には残雪があるのが見えたから、水は確保できる、前回もテントが張れるような残雪があった。今回もなんとかなるだろう。」との提案がされた。
日没まであと5時間ある。とにかく先へ先へと進むだけだ。
下りた雪堤は下から見るよりも急な傾斜で大桧原山山頂に続いていた。雪堤に乗ってからは登る距離が短いこともあるが、薮漕ぎしたあの時が幻だったかのようにさっくりと大桧原山山頂に着いた。
[大桧原山からアオ倉]
山頂から先も雪が続いていた。
かなり雪が融けて稜線から10m以上も離れた雪の斜面をトラバース気味に下ることもあるが、薮漕ぎすることを考えたら高速道路だ。これならば天狗小屋は無理ではないかもと期待したのもつかの間、400mも行かないうちに雪堤が途切れた。すぐ下にある次に続く雪堤に2mほど薮を伝って下りて繋ぐ。
大桧原山山頂南の標高1330m付近までは亀裂が入っていたりするものの雪堤自体はしっかりしており、途切れたのは先ほどの1か所のみだった。問題はこの先だ。
この辺りは、地形図にも載らないものを含めて小さなピョコが連続しており、ピョコの手前の稜線は雪が使えるのが見て分かるが、ピョコの向こう(南)は雪が切れている可能性が高い。しかし、こちらからは向こう側の斜面が見えないため、雪の付き具合の確認ができない。
手始めに最初のピョコとの鞍部への下降だ。
予想通り南側には一切雪がない。東斜面にかろうじて残る雪へ薮を下降して移動した。次のピョコの直前の鞍部では大きく縦(尾根から下へ斜面に平行)に亀裂が入っており、下から周りこんで稜線横の雪堤直下へ登り返す。
ピョコ自体には雪がなく、ピョコの東斜面には段々畑状の雪堤が引っかかっている。ここで残雪を使うか、稜線の薮を行くかの選択を迫られる。
雪堤を行った場合、ピョコを回り込んだ時点で雪がなく、厳しい薮のトラバースがありそうだということで、稜線に上って薮を行くことにした。
稜線の薮は濃いが、背の高さを越えるものではないのできつくはなかった。ただ、アイゼンを付けたままなので時折足を引っ掛けそうになるのが玉にきずだ。
途中に咲いていた白い花に癒されて、雪の付いた鞍部まで薮漕ぎ。再び雪堤に乗って、亀裂を避けながら進んだ。その先もピョコが出てくるたびに、雪堤が途切れた所から薮に取りついてトラバースするか稜線に戻り薮漕ぎして次の雪堤に下りてといったことを繰り返した。
このようにルート取りは同じだが、雪堤に乗るのに薮からすんなり下りられたこともあれば、薮と雪堤の隙間があいているため雪堤にステップを切って乗りあげが必要だったりと毎回処理が違うのが面白い。
調子にのっていると、前回はモコモコさんが雪堤に乗った瞬間に部分的に崩れて慌てて薮にしがみつく羽目になったり、今回は山人に「調子に乗ってはいけません」と山が戒めているようなことが起きた。
稜線に平行に大きく2つ亀裂が入っている間を平均台のように渡ろうとして、崩れるかもしれないと思いつつ体重を掛けたところ一瞬で崩れ軽自動車半分ほどの大きさのブロックと共に3mほど落ちた。崩れた瞬間死んだかと思った。モコモコさんも崩れて声もなく落ちたのでやられたかと思ったそうだ。不幸中の幸いというか悪運が強いというか、落ちるかもしれないと思っていたお陰か、大荷物を背負っていたにも関わらずかすり傷一つなく済んだ。
落ちたところは、足場がしっかりしており雪堤部分と稜線との間が大きく開いているが、雪そのものと斜面の境目の隙間はほとんどないのでそのまま先へ進み尾根へと登り上がることができた。
全く進んでいない感じがあるが、いつの間にか標高1320mのアオ倉への登りにかかっていた。アオ倉の登りはほとんど雪を使えたので楽だった。途中大きな亀裂が入っていたこともあったが、崩れることなく通過できた。
[アオ倉から紫ナデ南標高1300m辺り(幕営地④)]
アオ倉まで来ると、一気に下降して紫ナデへの登り返しが待っている。
紫ナデへの登り返しは、上部はかなり雪が残っているので予想よりも早く登れそうだが、少し下るまで見えない鞍部付近の薮状態に大きく左右されそうだ。前回は西側斜面にそこそこ雪が残っており、下草を抑えていてくれたので比較的早く進めたのだが。
アオ倉の下りは、南側であるが傾斜が一定であるためかたっぷりと雪が残っており、傾斜は急だが快適な下りだった。
「こんなに下りなくてもいいのに」ともったいないを口に出したのはお約束だ。
鞍部はきれいさっぱり雪がなくなっており、前回水作りをした場所も単なる薮だった。
紫ナデまで地形図上では単なる登りだが、地形図に出ない小さなでっぱりはいくつかある。
単純な登りで薮に分け目がてきているところは稜線を、小さなでっぱりが出てきてからは西側の斜面にを歩いた。比較的木が太いので薮漕ぎというほどではないが、下草や灌木が完全にでているので、そこそこうるさく引っかかった。
それでもここは、薮漕ぎの中では今までで一番速く進むことができた。先に雪が見えるのでひと頑張りして行くと、なんとアオ倉から見えた一つ目の雪ではなく、二つ目の長いほうの雪堤に乗ったことが分かった。
快適に雪が途切れるまで進んだところで、モコモコさんとルートについて意見が別れた。再び稜線に上がり薮を漕いで次の小さなブロックにのるルートを主張、するモコモコさんに対して、一度雪堤から下りて、薮の斜面をトラバースしてブロックの下まで移動してからブロックへ登るルートをとることを主張した。
それなら紫ナデの北側斜面を雪を繋いでトラバースしてから薮漕ぎして尾根に上った方が早くに登山道に出られると反論してくる。
北斜面トラバース案はモコモコさんも本気ではないのでさらりと流した。薮漕ぎしてだと時間がかかりすぎるが、こういうときのモコモコさんは説得できないので、こちらの主張した案で先行して進んだ。
ブロック下までは順調に行けた。やはり自分の選択が正しかったと思ったのもここまで。ブロックまでの距離が見た目よりも長くて急だ。
渋々着いてきたモコモコさんが追いついてきて、一言「ここ私には登れないよ、戻った方がいいよ」。
大丈夫だよと斜面に取りつくが、ブロックの融雪により泥つきになっており薮を頼りになんとかブロック足元まで登った。登ったところも安定はしていない。モコモコさんが騒ぐ通り、これは無理かも。
こちらのルートを取った責任上、ザックをおろして空身でモコモコさんの所へ戻り、ザックを受け取ってモコモコさんには空身で登ってもらった。
そのままブロック上へ登ってもらいたかったが、空身でも無理だというのでモコモコさんのザックを背負ったまま先にブロック上へ登った。
ブロックは日陰になりがちなところにあるので、固く締まっておりステップを切りながらでないと登れなかった。自分のザックを回収するために下降する際に、モコモコさんからピッケル持ってきてと指示が下った。ピッケルなしではありえない下降だったので一声かけてもらってよかった。
二人ともピッケルを出して慎重に登って、なんとかブロック上に立つことができた。明らかなルート選定ミスだった。これまでの薮漕ぎに嫌気がさしていたが、おとなしく薮を行くべきだった。
気を取り直して紫ナデまでの薮漕ぎに突入。薮漕ぎ開始の標高は1300m程で、赤見堂岳や大桧原山直下の薮よりはやさしい薮だ。
標高1350m辺りになると一気に薮が濃くなる。それでも登りきれば確実に道があると思うと薮漕ぎにも力が入る。
前回鳥さんの巣を見つけて喜んだのはどこだったのだろうと話す余裕もある。
実際、薮漕ぎの距離も標高差も小さいのでやがて傾斜がなくなり、先方の薮がなくなったのが見えた。
無事標識の建つ紫ナデに到着。
後続のモコモコさんに声を掛けて励ますと、間もなく嬉しそうな顔で薮から飛び出してきた。
時計を見ると既に17:00近く。
紫ナデそのものには雪がないが、少し離れるとすぐに雪が着いた状態になっている。なんとか泊まれそうだ。
天狗小屋までのコースタイムは疲れもあるので3時間ほどはかかるだろう。
誰もいなければ、ヘッデン行動して小屋まで頑張るが、お昼に聞いた無線では小屋は多くの人が入っているとのことだ。
無線の電源を入れて、17:00の定時交信を聞いてみる。
結果、各小屋では、5月とは思えない暖かさで外で飲んで盛り上がっているとのこと。天狗小屋も大にぎわいとのことだ。大桧原山に着いた時点でほぼ小屋到着は諦めており、大勢いる中、もしかすると寝静まった中到着する気もないので、泊まり場所を探しながら進み、いい幕営地があったら泊まろうということになった。
最初は大井沢方面へ一度下って探そうかという案も出たが、折角なので進行方向のルート上の障子ヶ岳方面へ進んだ。
幕営地はすぐに現れた。
登山道は雪で隠れているので雪上を快適に下りていくと、標高1300m辺りの登山道西側斜面に雪が残った窪地があった。テントを張るにも十分な広さがあり、結構風が吹いていたが窪地に入れば風も弱まるということで即決。
整地に時間がかかったがなかなか快適だ。
その分水作りが遅れてしまったが、5月はこういうものだ。
今日もきれいな夕陽を拝むことができた。明日は狐穴まで行けばよく、快適な小屋泊まりだ。久しぶりに明日の心配をせずゆっくり休めた夜だった。
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モコモコさんが先行する |
昨日は楽しい稜線歩きだった |
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快適なのはここまで |
薮に突入 |
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全く進んでいないことに愕然 このあと激薮のため写真お休み |
ここまできてやっと楽(前と比較して)になった |
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赤見堂岳にてモコモコさんを待つ(モコモコさんを探せ) |
赤見堂岳三角点 やっと着いた |
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赤見堂岳より 薮の多さにショックを受ける |
石見堂岳 |
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地形図で池マークのあるピークはなんとか雪を繋いで行けた |
雪が途切れているように見えるのが気になる |
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月山が遠くなった |
前回は雪で全て埋まっていた沢は水が出ていた |
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しばらく快適な稜線歩きができそうだ |
枯松山までは雪上歩き |
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枯松山から雪が切れる様になる |
振り返る 尾根の西側は薮で真っ黒 |
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高倉山への尾根はときどき薮漕ぎ |
先が思いやられる |
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前回はきれいな斜面が今回はズタズタの斜面 |
大きな亀裂 |
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なんとか雪が繋がっている |
大桧原山手前で一度雪が途絶える |
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薮漕ぎで次の雪に繋げる(最初は楽な薮漕ぎ) |
わずかな距離だが、えらく時間がかかった |
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雪が段々畑のように途切れてくる |
崩れないようにそっと通過 |
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薮をいくか雪堤にのるか判断に迷う |
ポコの頭前後と南側斜面を歩く時は薮を行くことが多くなる |
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薮の中の癒し |
このまま続いてほしい |
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振り返ると大して進んでいない |
どうしようかな?(先に見える雪堤で事件発生) |
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段々畑のように残る雪を繋いでいく |
ここは薮漕ぎでやり過ごす |
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アオ倉からの下りは雪を使えた |
アオ倉を振り返る |
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紫ナデへの登りのルートを検討する |
長い雪堤に乗れた |
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赤見堂岳が遠くなった |
この先の雪が途切れた所でルート選択ミス |
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紫ナデから 月山が霞んで見える |
今日中の天狗小屋入りは時間切れにより断念 |
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登山道の尾根には残雪たっぷり |
少し降りた窪地で幕営 |
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